男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

みっともないと思ってのことではないようで、ホッと胸を撫で下ろす。

例えばこれがバルドン公爵なら、悪く思われても傷つくことはない。絡まれることには困るけれど。

しかし、大公殿下にだけは悪いイメージを持たれたくなかった。

どうしてそんな気持ちになるのか……。

この国の最高権力者だから?

いや、なにか違う。

そういう立場的なことではなく、もっと人間的な……。


髪を結わえてくれたことに対し「ありがとうございます」とお礼を口にすると、大公殿下は優しく微笑んで頷き、頭を撫でてくれた。

その心配りの仕方をまるで兄の様だと感じると、先ほどの疑問に答えが出た。


大公殿下にだけは悪いイメージを持たれたくないと思った理由は、親しくなりたいという欲が私の中に芽生えているせいだ。

決定的な身分差があっても、もっと殿下に近い存在になりたい。

もっと詳しく殿下のことが知りたい……そんな気持ちにさせられたとき、ふとバルドン公爵の言葉を思い出した。

中庭からの去り際に呟いていた、『弟の代わりのつもりか?』という独り言を。

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