男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
弟ではなく、いるのは妹君。
その事実よりも、殿下の急な態度の変化に、まだ戸惑っていた。
もしかして、嫌われてしまったのだろうか?
それはどうして? 身内のことを詮索する煩い奴だと思われたとか?
そんなつもりではなかったのに、どうしよう……。
誤解を解きたい気持ちでいたが、仕事に戻る姿を見せられ、下がれとまで言われては、ドアへと向かうしかなかった。
「失礼しました」と頭を下げて扉を開け、廊下に出る。
閉まる前にもう一度室内に目を向けると、殿下は羽ペンを置いていて、代わりに襟元の黒い棒タイを握りしめていた。
俯き加減でいるため、銀髪に隠されて表情は見えないが、なんとなく気を落としているような……。
扉を閉めて、廊下に佇み、考える。
そういえば、どうしていつも黒い棒タイを締めているのだろう?
銀色の美しい髪と青い瞳に視線が奪われ、今まで気に留めていなかったが、多くの場合、黒の棒タイを締めるのは喪に服しているときだ。
もしかして、『弟はいない』という意味は、亡くなられたということなのか?
急に変わった大公殿下の態度の意味は、亡くなられた弟君を思い出してのことだったのでは……そう推測していた。
それが正しいのかどうかを、尋ねることはできないけれど……。