男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました

弟ではなく、いるのは妹君。
その事実よりも、殿下の急な態度の変化に、まだ戸惑っていた。

もしかして、嫌われてしまったのだろうか?

それはどうして? 身内のことを詮索する煩い奴だと思われたとか?

そんなつもりではなかったのに、どうしよう……。


誤解を解きたい気持ちでいたが、仕事に戻る姿を見せられ、下がれとまで言われては、ドアへと向かうしかなかった。

「失礼しました」と頭を下げて扉を開け、廊下に出る。

閉まる前にもう一度室内に目を向けると、殿下は羽ペンを置いていて、代わりに襟元の黒い棒タイを握りしめていた。

俯き加減でいるため、銀髪に隠されて表情は見えないが、なんとなく気を落としているような……。


扉を閉めて、廊下に佇み、考える。

そういえば、どうしていつも黒い棒タイを締めているのだろう?

銀色の美しい髪と青い瞳に視線が奪われ、今まで気に留めていなかったが、多くの場合、黒の棒タイを締めるのは喪に服しているときだ。

もしかして、『弟はいない』という意味は、亡くなられたということなのか?

急に変わった大公殿下の態度の意味は、亡くなられた弟君を思い出してのことだったのでは……そう推測していた。

それが正しいのかどうかを、尋ねることはできないけれど……。


< 96 / 355 >

この作品をシェア

pagetop