男装した伯爵令嬢ですが、大公殿下にプロポーズされました
「分かりました。すぐにお支度して向かいます」というジャコブの返事は聞き取れたが、相手の声は聞こえず、その姿も見えぬうちに帰っていったようだ。
ベッドに身を起こした私は、ドアを閉めて戻って来たジャコブに「誰?」と聞く。
なぜかジャコブの口元には、微かな笑みが。
「大公殿下にお付きの執事でした」
「クロードさん?」
「いえ、クロード執事長の下の者です。
大公殿下が本日の晩餐に、ステファン様をお呼びになられているそうです。急いでお支度を」
殿下の晩餐に私を……え、どうして!?
驚いて目を丸くする私に、ジャコブはキャビネットから出した見栄えのいいブラウスとズボン、若草色の上着を手渡す。
「お着替えを。襟留めは緑色のリボンでよろしいですか?」
「う、うん……」
ジャコブは必要な物を手早く揃えると、「終わりましたらお声をかけて下さい」と言って廊下に出てくれた。
私は着替えをしながら戸惑うばかり。
大公殿下は、私のことをお怒りになっていたのではないのだろうか?
晩餐に招いて下さるということは、嫌われていなかったと思っていいのだろうか?