all mine
潤哉さんに『今日はやっぱり無理だ』と、ドタキャンを喰らったのはさすがに痛かった。急な仕事が入ったのは仕方がないけれど、今日こそは会いたいという願いは叶わず、行き場のない気持ちはどんよりと曇ったまま。

『俺の誕生日なんて祝ってもらうほどのことじゃないから』なんて、本気で思ってるのかな。

「なんだかなぁ。この間まで、遠恋が終わるって浮かれてたのに」
「……なによっ。颯哉なんか、潤哉さんが神戸に転勤するなんて大嘘ついたじゃん。半年の長期出張だったのにっ」
「そんなの、樹希が素直じゃねぇからだろ。お前、何年越しの片思いってやつよ。兄貴に彼女ができたかどうか、いつも何気にチェックしてたくせに」
「あぁもう、そんなことまで覚えてなくていいってば」

ずっと気になる存在だった潤哉さんに、恋をしているとはっきり気付いたのはいつのことだったか。

颯哉の『兄貴の彼女をみようぜ』なんて悪趣味な誘いに乗っかって、子供みたいに庭から居間を覗いたのは、高二の夏休みだった。あのとき受けたショックは思いのほか鮮烈だった。あの、胸の中がひりつく感じ。あれが多分、始まりだ。

そのあと少しして、潤哉さんと彼女の別れを知ったときに湧いたほの暗い喜びに、ひとり自己嫌悪に陥った。

潤哉さんの話を聞いて憧れて入った大学も、この年の差で入れ違いだったから、彼の残り香を嗅いでいるみたいに過ごした。

同じ大学のおかげで、顔を合わせたときには共通の話題もかなり増えたけれど、やっぱり四年の差は大きくて。追いかけてみてもなかなか埋まらなかった。
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