all mine
颯哉にくだらない口喧嘩を売りつけて、心では別のことを考えている。

……潤哉さんは、いつになったら『樹希』って呼んでくれるんだろう。いつになったら『樹希ちゃん』から卒業できるんだろう。

ちゃんと潤哉さんのテリトリーの内側に入れたのか、それがよく分からない。

また日常世界に戻ってしまったから、妹分の位置にリセットされたんじゃないかと、どこからか不安な気持ちがわき上がってくる。

「あ~あ。……私、思考がマジでウザいかも」

私の言葉に颯哉は片眉をあげる。

「お前。なんか……大丈夫?」
「誕生日お祝いするの断られるような女なので、大丈夫じゃない。けど、重ね重ね言うけど同情無用」
「……大丈夫じゃねぇのか」

あたりまえじゃん、と颯哉の顔をねめつける。

「しょうがねぇなぁ。……兄貴って、たしかに包み隠さず話すってタイプじゃねぇけどさ、そのうえ相当鈍いしな。でも一度決めたことには初志貫徹っつーか、ゆるがないっつーか、うまく言えねぇけどそんな感じの人間だからさ。だからお前も俺にグダグダ言ってないで、兄貴に文句言ってやれよ。ちゃんとお前のこと、考えてんじゃねぇの?」

潤哉さんが考えてる方向がどこを向いてるのか、それが問題なのに。

日常生活に戻ったら『目が覚めた』と言われるのが一番怖い。今の私は、そんなことを確かめる勇気なんて持ち合わせていないから。

私はボトルワインを追加オーダーして、この場にいない潤哉さんの誕生日を半ばやけ気味に祝ったのだった。
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