何よりも大切なモノ
ちょっとした騒動が終わり、亜美が食べかけの弁当を口に運びはじめると、またぞろ数名の男子が弥生の前に並んだ。
亜美は誰にも聞こえないように、微かにため息を吐きつつ、しかし今度は何も気にしないようにした。
今回居並んだ男子の中には、丸井のような粘着質でずる賢い性格をしている者はおらず、下心ではなく淡い期待を抱いているだけなのが分かったからだ。
それに、きっと友人として誘わないのも悪い――といった情のようなものもある。
こういう時は誘われてる弥生が受け答えするのが道理で、自分がしゃしゃり出るのは危険な相手か、弥生の危うさが露出した時だけだと思っていた。
そうじゃないと、クラスの仲間と弥生との間に隔たりを作ってしまうことになる。
弥生はお姫様などではなく、アイドルとは言われていてもテレビに出ているようなアイドルではない。
皆と同じ、ごく当たり前の高校生なのだ。
両者の間に壁などあってはいけない。
視線すら向けないようにして弁当を頬張っていると、ほどなくして男子達は引き下がっていった。
案の定、今回の男子達は弥生が丁寧に断ると、一度で諦めたのだ。
時計を見ると、いつの間にか昼休みは残り10分を切っていた。
弥生の弁当はほとんど手つかずで残っている。
「弥生、早く食べなよ。もう昼休み終わるよ」
「あ、うん。大丈夫、私食べるの早いから」
言葉通り、弥生は食べるのが早い。
いや、普段は普通のペースで美味しそうに味わって食べているのだが、いざという時はその見た目とは裏腹に、弁当を一気に掻き込み、お茶で胃の中に流し込んでしまう――といった芸当を披露したりする。
その姿は豪快だが、なぜかそれが逆にチャーミングに映り、そういったところも皆に愛されるのだった。
ちなみに亜美も同じことが出来るが、亜美がやると単に「豪快だ」「男みたいだ」と言われて終わる。
そういうところは弥生は得をしてる――などと、たまに軽口を叩いてしまうが、実際のところ、弥生はその容姿と人柄のせいで損をしていることの方が多いんじゃないかと、亜美は思っていた。
一気食いの芸当にしても、人気がある故に、時には食べる暇を奪われ、かと言って残したりすると弁当を作ってくれている母親に悪いからと、あみ出したに違いないのだ。
「ねぇねぇ弥生」
弥生が弁当の残りを頬張り、お茶で流し込もうとしているところで、今度は二人の女子が話しかけてきた。
弥生はお茶を片手にハムスターのように頬を膨らませ、目をしばたたかせる。
それを見た二人が、どっと沸いた。
「やぁーん、弥生ったら可愛いー」
「ごめんね。先に食べちゃって」
そう言われてから三秒後には、弥生は口の中のものをお茶で流し込み、喋る準備を整え終えていた。
「どうしたの?」
「ん? どうしたのっていうか……」
「あのさ、いつも聞いてることなんだけど、弥生って本当に好きな人とかいないの?」
亜美は誰にも聞こえないように、微かにため息を吐きつつ、しかし今度は何も気にしないようにした。
今回居並んだ男子の中には、丸井のような粘着質でずる賢い性格をしている者はおらず、下心ではなく淡い期待を抱いているだけなのが分かったからだ。
それに、きっと友人として誘わないのも悪い――といった情のようなものもある。
こういう時は誘われてる弥生が受け答えするのが道理で、自分がしゃしゃり出るのは危険な相手か、弥生の危うさが露出した時だけだと思っていた。
そうじゃないと、クラスの仲間と弥生との間に隔たりを作ってしまうことになる。
弥生はお姫様などではなく、アイドルとは言われていてもテレビに出ているようなアイドルではない。
皆と同じ、ごく当たり前の高校生なのだ。
両者の間に壁などあってはいけない。
視線すら向けないようにして弁当を頬張っていると、ほどなくして男子達は引き下がっていった。
案の定、今回の男子達は弥生が丁寧に断ると、一度で諦めたのだ。
時計を見ると、いつの間にか昼休みは残り10分を切っていた。
弥生の弁当はほとんど手つかずで残っている。
「弥生、早く食べなよ。もう昼休み終わるよ」
「あ、うん。大丈夫、私食べるの早いから」
言葉通り、弥生は食べるのが早い。
いや、普段は普通のペースで美味しそうに味わって食べているのだが、いざという時はその見た目とは裏腹に、弁当を一気に掻き込み、お茶で胃の中に流し込んでしまう――といった芸当を披露したりする。
その姿は豪快だが、なぜかそれが逆にチャーミングに映り、そういったところも皆に愛されるのだった。
ちなみに亜美も同じことが出来るが、亜美がやると単に「豪快だ」「男みたいだ」と言われて終わる。
そういうところは弥生は得をしてる――などと、たまに軽口を叩いてしまうが、実際のところ、弥生はその容姿と人柄のせいで損をしていることの方が多いんじゃないかと、亜美は思っていた。
一気食いの芸当にしても、人気がある故に、時には食べる暇を奪われ、かと言って残したりすると弁当を作ってくれている母親に悪いからと、あみ出したに違いないのだ。
「ねぇねぇ弥生」
弥生が弁当の残りを頬張り、お茶で流し込もうとしているところで、今度は二人の女子が話しかけてきた。
弥生はお茶を片手にハムスターのように頬を膨らませ、目をしばたたかせる。
それを見た二人が、どっと沸いた。
「やぁーん、弥生ったら可愛いー」
「ごめんね。先に食べちゃって」
そう言われてから三秒後には、弥生は口の中のものをお茶で流し込み、喋る準備を整え終えていた。
「どうしたの?」
「ん? どうしたのっていうか……」
「あのさ、いつも聞いてることなんだけど、弥生って本当に好きな人とかいないの?」