何よりも大切なモノ
傍らで声を聴きながら、亜美は『また始まった』と思っていた。
この二人は、とにかく恋の話し――通称恋バナが大好きなのだ。
これまでにも何度となく弥生から話を聞き出そうとしており、しかし弥生の返事はいつも決まって――
「うん。皆好きだけど……二人の言ってるような意味では……まだいないかな」
となる。
そうすると、それが不満な二人は
「えー、うそー」
「なんでー弥生だったらー」
と食い下がろうとするのだ。
(ったく。毎回よくやるよ)
予想通りの問答を目の当たりにし、亜美は心の中で少し毒づいた。
はっきり言うとめんどくさい奴らだと思うが、でもこうやって当たり前のように弥生の恋について触れてくれているのを聞くと、安心するのも事実だった。
弥生が男子に好かれているのは、もう確かめるまでもない。
しかし男子に好かれるということは、同性である女子の反感を買ってしまう――という恐れが十二分にあるのだ。
一方通行なものであろうと恋敵になってしまった時は言うに及ばず、ただ人気者というだけで、敵視されることもあるだろう。
それが普通で、人の気持を外にいる誰かがコントロールすることなど不可能だからだ。
そうなった時は仕方ないと腹をくくっているが、幸いにして弥生は本当に今のところ誰かに恋愛感情を抱いている様子でなく、意識すらしていないといった感じで……だからか、驚くほど同性からの反感を買っていなかった。
きっと弥生に恋した男子は多く、その間、一時的に恋敵として含みを持たれることはあっただろうが、何しろ弥生は男気がない。
学年一のイケメンであろうと、他の女子には見向きもされないオタクであろうと、弥生はまったく同じように、友人として接する。
そういう態度を見ていると、他の男子も弥生への恋を意外なほど早く醒ましてしまうのだろうと思っていた。
だから、今さら女子の反感を買う心配はほとんど無いと言っていいのだが、安心できる材料があるに越したことはない。
その点で、恋バナが大好きなこの二人は男子の恋愛事情や噂話しを提供してくれる情報元であり、またこの二人が誰よりも男目線を意識する質なので、それ絡みで弥生が反感を買うことがあれば、真っ先にこの二人の様子に変化が現れると思っているのだった。
「どうなの? 本当は誰かいるんじゃないの?」
二人はさっきから弥生にばかり訊いている。
つまり、自分達から提供できる情報はなにも無いのだ。
周りの、弥生を取り巻く状況に変化はない。
ならば安心できると亜美は思った。
弥生の方に変化がないのは、自分が一番知っている。
と、そう思ったところで、不意にどちらかが言った。
「知ってるよ、弥生……」
意地悪く、勿体ぶった言い方。
「弥生さ、実は付き合ってる人いるんでしょ?」
この二人は、とにかく恋の話し――通称恋バナが大好きなのだ。
これまでにも何度となく弥生から話を聞き出そうとしており、しかし弥生の返事はいつも決まって――
「うん。皆好きだけど……二人の言ってるような意味では……まだいないかな」
となる。
そうすると、それが不満な二人は
「えー、うそー」
「なんでー弥生だったらー」
と食い下がろうとするのだ。
(ったく。毎回よくやるよ)
予想通りの問答を目の当たりにし、亜美は心の中で少し毒づいた。
はっきり言うとめんどくさい奴らだと思うが、でもこうやって当たり前のように弥生の恋について触れてくれているのを聞くと、安心するのも事実だった。
弥生が男子に好かれているのは、もう確かめるまでもない。
しかし男子に好かれるということは、同性である女子の反感を買ってしまう――という恐れが十二分にあるのだ。
一方通行なものであろうと恋敵になってしまった時は言うに及ばず、ただ人気者というだけで、敵視されることもあるだろう。
それが普通で、人の気持を外にいる誰かがコントロールすることなど不可能だからだ。
そうなった時は仕方ないと腹をくくっているが、幸いにして弥生は本当に今のところ誰かに恋愛感情を抱いている様子でなく、意識すらしていないといった感じで……だからか、驚くほど同性からの反感を買っていなかった。
きっと弥生に恋した男子は多く、その間、一時的に恋敵として含みを持たれることはあっただろうが、何しろ弥生は男気がない。
学年一のイケメンであろうと、他の女子には見向きもされないオタクであろうと、弥生はまったく同じように、友人として接する。
そういう態度を見ていると、他の男子も弥生への恋を意外なほど早く醒ましてしまうのだろうと思っていた。
だから、今さら女子の反感を買う心配はほとんど無いと言っていいのだが、安心できる材料があるに越したことはない。
その点で、恋バナが大好きなこの二人は男子の恋愛事情や噂話しを提供してくれる情報元であり、またこの二人が誰よりも男目線を意識する質なので、それ絡みで弥生が反感を買うことがあれば、真っ先にこの二人の様子に変化が現れると思っているのだった。
「どうなの? 本当は誰かいるんじゃないの?」
二人はさっきから弥生にばかり訊いている。
つまり、自分達から提供できる情報はなにも無いのだ。
周りの、弥生を取り巻く状況に変化はない。
ならば安心できると亜美は思った。
弥生の方に変化がないのは、自分が一番知っている。
と、そう思ったところで、不意にどちらかが言った。
「知ってるよ、弥生……」
意地悪く、勿体ぶった言い方。
「弥生さ、実は付き合ってる人いるんでしょ?」