何よりも大切なモノ
2
亜美は盛大にため息を吐いた。
放課後の教室。
他のクラスメイトは全員帰り、今は亜美と弥生の二人がいるだけだった。
「なんか、今日は疲れたねぇ」
「そうだね。いつもより少し色々あったからね」
同調してるわりに、暢気な顔で暢気な声を発する弥生。
それが弥生なのだと分かってはいても、二人きりということもあってか、亜美は少し疎ましく感じてしまった。
「少しじゃないわよ。あんたは気づいてないかもしれないけどさ、こっちは微妙なところで色々神経使ってんだからね」
言ってしまってから、亜美はしまったと後悔した。
弥生のナイトでいることは、誰に強制されたわけでもない、自分で選んだ役割なのである。
苦労することくらい、とっくに覚悟していたはずだった。
それに……弥生はそんなに鈍感な娘じゃなかった。
きっと、本当は何もかも知っている。
何もかも気づいている。
何もかも気づいていながら、何も気づいていないフリをしているのだと。
亜美も気づいていた。
不安や迷いや、その他様々な感情に押し潰されそうな時も、弥生が暢気な天然娘を演じていることに。
それは嫌みや計算などではなく、弥生の優しさだった。
多くの人に影響を与える弥生のような人間が、不安や迷いを表沙汰にすると、必ずその上にのし掛かってくるものがある。
人の醜さというのか、本能というのか……
とにかくそれがのし掛かってくると、必ず争いが生まれる。
争いは対立という構図かもしれないし、どこからかの一方的なものかもしれない。
とにかく、傷つく人も傷つける人も出てくる。
弥生は、それをもっとも恐れているのだ。
そして亜美は、そうやって周囲に遠慮し、自分のことは二の次にする弥生が、いつか深く傷つくのではないかと恐れていた。
「ねぇ亜美……私なら、大丈夫だよ。きっと何とかなると思うから」
不意に弥生が、見透かしたようなことを言った。
やはり、気づいている。
亜美の、弥生に対する不安も、自分自身に対する不安も。
少なくとも後四年、自分は弥生の傍にいられる。
しかしその後はどうなのか、いや、そもそもその四年の間、本当に自分は弥生を守り抜けるのか。
身を挺してでも弥生を守るという気持ちに偽りはない。
しかし実際、自分が傷つくとそれを悲しむ人がいる。
まず弥生がそうだ。
自分を守るために親友が傷ついたとなったら、弥生はどうなるか。
考えるのも恐ろしかった。
そして自分にはもう一人、弥生に負けず劣らず、自分のことを思ってくれている人がいる。
亜美は目を閉じ、恋人の沢田翔一の顔を思い浮かべた。
兄の友人であり、自分にとっても幼い頃からの知り合いだった。
放課後の教室。
他のクラスメイトは全員帰り、今は亜美と弥生の二人がいるだけだった。
「なんか、今日は疲れたねぇ」
「そうだね。いつもより少し色々あったからね」
同調してるわりに、暢気な顔で暢気な声を発する弥生。
それが弥生なのだと分かってはいても、二人きりということもあってか、亜美は少し疎ましく感じてしまった。
「少しじゃないわよ。あんたは気づいてないかもしれないけどさ、こっちは微妙なところで色々神経使ってんだからね」
言ってしまってから、亜美はしまったと後悔した。
弥生のナイトでいることは、誰に強制されたわけでもない、自分で選んだ役割なのである。
苦労することくらい、とっくに覚悟していたはずだった。
それに……弥生はそんなに鈍感な娘じゃなかった。
きっと、本当は何もかも知っている。
何もかも気づいている。
何もかも気づいていながら、何も気づいていないフリをしているのだと。
亜美も気づいていた。
不安や迷いや、その他様々な感情に押し潰されそうな時も、弥生が暢気な天然娘を演じていることに。
それは嫌みや計算などではなく、弥生の優しさだった。
多くの人に影響を与える弥生のような人間が、不安や迷いを表沙汰にすると、必ずその上にのし掛かってくるものがある。
人の醜さというのか、本能というのか……
とにかくそれがのし掛かってくると、必ず争いが生まれる。
争いは対立という構図かもしれないし、どこからかの一方的なものかもしれない。
とにかく、傷つく人も傷つける人も出てくる。
弥生は、それをもっとも恐れているのだ。
そして亜美は、そうやって周囲に遠慮し、自分のことは二の次にする弥生が、いつか深く傷つくのではないかと恐れていた。
「ねぇ亜美……私なら、大丈夫だよ。きっと何とかなると思うから」
不意に弥生が、見透かしたようなことを言った。
やはり、気づいている。
亜美の、弥生に対する不安も、自分自身に対する不安も。
少なくとも後四年、自分は弥生の傍にいられる。
しかしその後はどうなのか、いや、そもそもその四年の間、本当に自分は弥生を守り抜けるのか。
身を挺してでも弥生を守るという気持ちに偽りはない。
しかし実際、自分が傷つくとそれを悲しむ人がいる。
まず弥生がそうだ。
自分を守るために親友が傷ついたとなったら、弥生はどうなるか。
考えるのも恐ろしかった。
そして自分にはもう一人、弥生に負けず劣らず、自分のことを思ってくれている人がいる。
亜美は目を閉じ、恋人の沢田翔一の顔を思い浮かべた。
兄の友人であり、自分にとっても幼い頃からの知り合いだった。