タイムリミットは君にサヨナラをするまで。
瞳からは涙がチラついてる。
それを慌てて拭う彼女だけど涙は止まってくれないみたいで。
踏み切りのバーが上に上がるとともに歩み始める。
俺は自然と背中をさすってあげた。
彼女は「ごめんね」と鼻をすすりながら言葉を紡いだ。
「松崎くんはさ。あゆ、……好きな人、いるの?」
足が止まりそうになった。
それでも前に進んだのはただ単に歩道だからとかじゃなくて、止まったら傷つけてしまうと思ったから。
佐來さんは俺のことが好きなんだと思う。
これは直感だ。
浜仲との会話で導き出した俺の推測。
でもそれが確信へと変わった。
ようやく足を止めたのは病院へ通うための最寄り駅。
「いるよ。好きな人」
もう目には涙が溜まったりはしていなかった。
向かい合った瞳は笑っていた。
納得したように笑った彼女は俺にある物を差し出すと、背を向けて走り去ってしまった。
名前を呼ぶことすらできなかった。
手には、四角く縦長のチョコ菓子。
それは亜優奈の大好きなチョコレートだった。