タイムリミットは君にサヨナラをするまで。


……なんでここに?

歩未たちと病院に行ったはずじゃ。


彼は息を整えながら私を見つめていた。

その表情は読み取れない。


もう少し前に来てくれたら分かりそうだ。




「松崎く、」

「亜優奈?」


彼は何を言っているのだろう。

発したのは『私』の名前。


いや、でも今の私も『あゆな』だ。

だけど、幸太郎が下の名前で呼ぶことは今の私では有り得ない。



砂利を蹴る音が大きくなって明るみに出た彼の表情に私は釘付けになった。




「……松崎くんなに泣いてるの?」


目元から落ちてくる光が静かに頬を伝っている。


無意識に伸ばした手は涙を拭うことなく彼の手によって遮られた。



「おまえ亜優奈だろ?」

「……えっ、違うよ?」

「嘘つくなよ。何やってんだよおまえ……っ」


握られる手は強すぎて解きたくても解けられなかった。


てか、なに言ってるの?

なんで私が亜優奈だって分かるの?
私はまだ『佐来あゆな』のままのはずだよ?



「ま、松崎くん、ど、どうしたの……?」

「どうしたって……俺だって訳わかんない。さっきまで俺といたのは佐来さんだった。だけど追いかけたら、お前が、亜優奈が」


半ばパニックになって早口で話す彼に私の頭も次第に追いつかなくなっていく。


追いかけた?

なんで。だって、歩未たちと病院に行ったんじゃなかったの?



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