タイムリミットは君にサヨナラをするまで。


「お前なんでこんなところにいるの?病院で寝てるんじゃなかったのかよ。それにその格好……」


そう言って指すのは浴衣。


この日のために歩未と買いに行って、幸太郎に少しでもかわいいって思われたくて着付けてきた白と紫を基調とした浴衣だ。そこにはスズランがあしらわれている。


待ち合わせ場所にやっと来た幸太郎はちゃんと言ってくれた。


『佐来さんらしくて似合ってる』って。



嬉しかった。ほんと私は単純だから。

でも心の奥隅では悔しいとも思ってた。


この姿はやっぱり自分じゃなくて、借り物の姿であるから。


幸太郎は『私』に言ったんじゃなくて、私を装った偽りの姿の『私』に言っているのだから。


でもそう望んだのは自分だ。

最期まで頑張ると言ったのはこの私。



「佐来さんじゃないよな?だってちゃんとお前だもん。本当に亜優奈?なんで?なんでそんな格好してるの?」


両肩をしっかり掴む彼の手は震えていた。

幸太郎には私がちゃんと見えているみたいだ。

ここに私を映すモノがあれば姿が戻っているのか確認できるはずなんだろうけど、辺りにはそれらしき物は見つからない。


ここは賭けに出ようと思った。


もし今本当の姿に戻っているのなら──。



ゼテルアさん。聴こえてますか?

きっとこの瞬間を待っていたのかもしれない。

終わらせるならこの瞬間(とき)なんだと思うから。



もう、自分を偽ってばかりじゃ嫌だ。

本当の自分でちゃんと伝えたい。


いいよね?



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