『コーン』な上司と恋なんて
ここで笑ったらきっと、逃げて行ってしまいそうだ。



「それならいい。遠慮もしないで誘える」


怒っていた顔が「えっ…」と驚いた。

俺が腕を伸ばしたら、ビクッと体を揺らす。


「何か食べに行こう。もう一度先週のように話したいんだ」


肩に手を置いたら真っ赤になった。

口に海老フライを入れたまま赤面した時のようだ。


(そう言えばあの時も可愛いな…と感じたっけ)


いつ頃からそんな感情が動いてた?

いなり茶屋で御守りを差し出してきた時に、既にそう思ったんじゃないのか。


「い…いいんですか!?」


狼狽える芦原に頷き返す。
彼女は一瞬目を見開き、唇に人差し指の腹を押し当てて考え込んでいた。


「その代わり今夜は君が支払ってくれ。急に外回りへ出たから、いい様に部長に振り回されて金が少ない」


あのタヌキ野郎は、俺が外へクレーム処理に出かける時はいつも愛人とデートをする。

俺と打ちっ放しに行く…と奥さんに嘘を吐くもんだから、こっちはオフィスに帰りたくても帰れない。

仕方がないから製造部門へ行ったり研究室に顔を出して、金澤さんのような肌質の人もいるようだ…と伝えて回った。


その結果がこの遅さだ。
今更、直帰の連絡なんて入れる必要もないだろう。


「奢ってくれるか?」と念を押して聞くと、芦原の顔が上がった。


「はい!勿論です!」


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