『コーン』な上司と恋なんて
悪阻用のハンドタオルをヒラヒラさせながら見送られる。


「もうっ…仕様がないなぁ…」


そこまでされると嫌でも足を向けないといけなくなる。

恐々…と課長の背中に近寄った。

私の視界には、チラッと振り向く先輩達の視線も気になりーー



(ひぃ…こ、怖い…)



何で私はこんな上司に恋なんてしたんだろう。

同じ部署では、声もかけづらいくらいにモテるのに。



「か…カチョウ?」


ダメだ。
声が完全に固まってる。


斜め後ろに立ってる私の声に気づき、書類の訂正をしてた課長の手が止まる。

握ってるボールペンを持つ手が再度握り返されるのを見定めてたら、くるりと椅子が回転した。


「何?芦原さん」


声がやたらと冷ややかだった。

私の居場所を聞いたというのはホントなんだろうか。


「あ…あの、私をお探しでしたか?」


何かありましたか?と尋ねた。

課長の眼差しは真っ直ぐと向けられ、まるで何かを問い詰められそうな雰囲気を感じる。

ゴクッと唾を飲み込んだ時に……。


「……いや、何もない。この間の様な案件が感想に上がってなかったかを聞こうとしただけだ」


どうだ?と言われ、「何もないです」と即答した。

課長は納得するように頷き、「なら、いいよ」と向きを変えた。


ドキドキ…と胸が鳴ってるのは私だけだ。

課長の背中は、氷みたいに冷たい。


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