『コーン』な上司と恋なんて
「俺の部屋に来るかと聞いてもいいかな」


そしたらどんな顔を見せてくれるんだろうか。

また真っ赤になって、狼狽えるんだろうか。



「そこまで辿り着けるか…だな」


フ…と笑いを噛んでライトを消した。

芦原との時間が、これまでで一番の楽しみになってた……。



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オフィスの正面玄関を出ると、前と同じように壁に背中を凭れて立つ芦原がいる。

赤いマフラーを鼻の辺りにまで引き上げ、隙間から白い息を吹き出している。

ライトブラウンの髪の毛と黒いコートの隙間に見える白い肌。

まるで、彼女が飼ってた三毛猫のようだ…と、思いながら近付いた。



「待たせた」


俺の声に振り返り、キュッと唇の端を引き締める。
「いえ…」と呟くように言った芦原が、「あの…」と声を発した。


何だろうかと顔を見下ろすと、戸惑うように視線を逸らす。
下向きになった顔を赤らめながら、ボソッ…と小声で囁いた。



「今夜は…課長の部屋で飲みませんか?」


思いがけず向こうから言われてドキッとした。
俺が言おうと思ってたことだったのに、彼女に先を越された。



(つくづく、いい意味で裏切ってくるな…)


ニタリと顔が緩む。
これだから芦原といると面白い。



「いいよ。俺もそのつもりでいたんだ」


そう言ったら驚いたように顔を上げる。



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