『コーン』な上司と恋なんて
視線が合ったら、照れ臭そうに目を伏せた。


「そ…それじゃあ何か買って行きましょうか」


「いいね。そうしよう」


並んで駅へ向かいだした。
今夜は遅いせいか、芦原の歩く速度もノンビリとしている。

普段はよほど部署の女達の目が怖いんだな…と思え、俺なりに気の毒な気分に陥った。


(コレというのも俺の態度がいい加減だったからだよな)


その場凌ぎの嘘で誤魔化し続けてきた。
これからは誰にでもいい顔をするのは止めて、きちんと襟を正しておこう。


(でないと芦原には嫌われそうだ)


隣を歩く女性にとって、俺はいい加減なことばかりを言う男にしか見えてなかったんだ…と、先週の金曜日に思い知らされた。

その場凌ぎで言った軽いジョークを、全部真実だと思われてることにショックを受けた。


勿論、それは俺が悪い。
いい加減なことばかりを口にして事なきを得ようとしてきた罰だ。


だからこそ、今後はきちんとした事を教えたいと感じた。
それを果たす為にも、土曜日の約束をキャンセルする必要があった。


それをしたら、芦原はきっと俺への不信感を強めるだろうと思った。
土曜日の昼間は「悪かった…」と言うつもりで電話をかけてみたが、彼女は出てくれなかった。

日曜日も電話を待ったが、着信音が流れることはなかった。


俺からは再度、電話をすることはできなかった。

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