『コーン』な上司と恋なんて
仔犬のような声に聞こえ、俺は今度こそ正しい生き方をしようと誓った。

ジョンにだけ見せてきた素顔で、これからは芦原の前に居るんだ。


鍋のおでんはすっかり冷めてしまった。
彼女は冷えた厚揚げを見つめながら。

「私、またあの稲荷神社へ行きたいです」と言った。

今度は油揚げを持って行き、奥の院へお礼参りをしたいんだと話す。


「だったら『いなり茶屋』で油揚げを買えばいい。あそこは金澤さんの実家で、店の主が父親なんだ」



種を明かすと大袈裟に驚かれた。

俺はやっと芦原に勝てた気がして、「ブハッ!」と声を上げて笑ったーーー。




それから、鍋を温め直して食事を終えた。

俺が実家から持って帰った中学の卒業アルバムを見ながら芦原は「ホントだ〜」と喜ぶ。

話だけでは信じてもらえなかったんだ…とわかりショボくれたけど、それも仕方ないだろうと思う。


「中学時代も素敵ですね、課長」


そう言われて許そうって気になった。
役職名で呼ぶなと言っても「でも…」と躊躇する。


その後で俺とジョンが写ってるアルバムを見せた。
仔犬のジョンと触れ合う姿を見つめながら、やっぱり芦原は涙する。


「私と同じことしてる……」


鼻をぐずらせながら一緒に寝てたりエサをあげる前に躾を覚えさせてる姿を見て目を細める。

こっちも元気だった頃のジョンを思い出して、少しばかり落ち込んだ。


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