『コーン』な上司と恋なんて
「お願いします!」


念押しをするように課長の頭が項垂れた。


母と姉の視線が父に向けられ、虚取った父は体裁を繕うように咳き込んだ。


「ゴホン!ゴホゴホッ!」


ワザとらしい…と呟く姉を睨み、父は課長に言い渡した。


「必ず娘と一生を添い遂げられると約束は出来ますか?」


この台詞を聞くのは二度目だ。
義兄の由輝さんが、結婚の申し込みをしに来た時も同じことを聞いてた。


「翼は菓子を作るのは上手いが、料理の腕前は期待できる方じゃありません。性格も不器用で働きながら家事や育児は出来難い方だと思う。古手川さんの言うように面倒見が良くて気持ちだけは優しいけど、そういう子でも本当にいいんですか?」


貶されたのか褒められたのか謎な雰囲気の言葉を並べて、父は課長を直視した。
課長はチラッと私の方を見て、少しだけ悩むようなフリを見せたけど……。


「俺は翼さんの全てがいいんです。働いてくれなくてもいいから家庭をきちんと守ってくれればいいと思います」


顔を見たまま言われた。
専業主婦になってもいい…と、再度言ってるようにも聞こえる。


「花嫁修業なんてさせてないぞ?」


「それは今からでも間に合いますから」


父に向けて放った言葉を私はどういう風に受け止めればいいんだろう。


じっと父が彼を見つめた。
その場だけの言葉かどうかを見抜いてる様な視線を送る。


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