『コーン』な上司と恋なんて
この店は駅から徒歩5分もあれば着く所にある。
駅までの道は人通りも多くて街灯も沢山あったから明るい。


「悪いけど一杯だけ付き合ってくれよ。ずっと喋りっぱなしだったから喉乾いてやれない」


「えっ…でも……」



ちらっと後ろにいる人を見た。
コックコートの女性は呆然とした顔つきのままで立ってる。



(課長……いいんですか?)


声にならない思いとは反対に、課長のお願いに付き合いたいと思う自分がいた。


一杯だけなら付き合ってもいい。

今夜が最後の接点なら、是非とも一緒に過ごしておきたい。



「ダメか?」


なかなか答えない私に課長が顔を覗き込んで聞いてきた。


「いいえ。いいですよ」


ゴメンなさい……と頭の中で金澤さんに向けて謝る。

きっと一杯だけ飲んだら直ぐにお別れになると思うから許して下さい…と願った。



「それじゃあ、金澤さん。また」


「は、はい。ありがとうございました」


ぼぅっとしてた彼女に手を振り、店のドアを開けてくれる課長。

私は彼女に向かって一礼をして、ドアの隙間をくぐり抜けた。


冷やっとした外気に触れて、かなり冷え込んでることに気づく。

上を見上げると雲が立ち込め、雪でも降ってきそうな気配だ。



「冷えるな」


店のドアを閉めた課長がコートのポケットに手を突っ込んで言った。


「本当。雪でも降ってきそうですね」


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