『コーン』な上司と恋なんて
落ち着こうと思い、席を立った。

フロアのトイレの個室にこもり、スーハーと深呼吸を繰り返していたらーーー



「全く掴めない男よ、あれは」


庶務課の先輩達の声が聞こえてきた。
自分もサボってるから何も言えないけど、ここに居ることが見つかったら非常にマズい。


息を忍ばせて聞き耳を立てた。
先輩達が話してるのは、どうやら古手川課長のことみたいだった。


「昨日の新年会でモーション相当掛けてるのにまるで知らん顔すんのよ。『本気なんですけど!?』って言ったら何て言ったと思う?」


「何て言ったの?」


相手の先輩は笑いを噛み締めながら聞き返した。

半ば本気で怒ってそうな先輩の方は、それがね…と、言葉の間を空けてから囁く。


「『…俺、バツイチなんだけどいいか?』って。そんな見え透いた嘘を吐く人じゃなかったのに、誰が信じたりすると思う?」


「意外に本当なんじゃない?」


聞かされてた先輩の方は呟く。


「それに近い情報を得たこともあるよ」


「どういうの!?教えて!」


コソコソと話し合ってる内容は、ほぼ全部私の耳に届いた。

昨日のあの人との事かもしれないと、疑心暗鬼な気持ちが広がっていく。



先輩達は古手川課長が取引先の女性と結婚したことがあると話をしていた。

相手は仕事のデキるキャリアウーマンで、結婚したもののお互いの価値観が埋まらなかったから別れたんだと言ってた。


< 55 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop