『コーン』な上司と恋なんて
「どうかしましたか?」


目線を向けると、課長の視線は泳ぐ。


「いや……別に、何でもない……」


そう言ってる側からデスクを離れ、部署の外へ出て行く。

こっちは様子のおかしい課長が気になり、思わず背中を追いかけた。



廊下に出ると、課長を見つけた女子が声をかけようと近づいてくる。
その姿も目に入らない様子で、課長はどんどん歩く速度を上げる。


何処に行くんだろうと見てたら、廊下の突き当たりにある非常階段へと進んでる。

まるで突進してるかのようで、何だか怖いくらいの勢いだ。



(課長ってば、どうしたの!?)


呼び止めても止まりそうにない雰囲気を変だと思った。

とにかく背中を見失わないように距離を置いたまま後をつけた。


非常階段へと続くドアの隙間から姿が見えなくなって、私はヒヤヒヤしながらドアを引っ張る。

外に出たら課長の姿はなくて、何処へ行ってしまったのか…と焦った。





「芦原さん……どうかしたのか?」


背中側から声が聞こえた時はギョッとした。
見えないと思ったら壁際に居たんだ。


「課長が急に出て行くからどうしたのか気になって……」


乱れた呼吸をしたままで答えた。

私よりも息の切れてる人は、「そうか……ごめん……」と謝る。



この人はいつも謝ってばかりだ。

私みたいな無能な部下にも平気で「ごめん」と言う人。

その言葉の真意が、どこまで本心かも掴めない人だ。


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