『コーン』な上司と恋なんて
「は……クシュ!」
目の前にいる芦原 翼は急に口元を歪めるとクシャミをした。
ぎゅっと掴まれてた腕の力が緩み、恥ずかしそうに鼻と口を隠す。
「…すみません。急に鼻がムズムズして…」
グスッと鼻を鳴らし、着ていたベージュ色のカーディガンのポケットからハンカチを取り出す。
それを鼻の下に押し当て、引き続き出てきそうなクシャミを堪えた。
「入ろう。君の方が風邪を引く」
背中を抱くようにして引き寄せると、驚いた顔を向けてビクつく。
男に慣れてない様な仕草に受け取れ、彼氏がいるんじゃないのか?…と疑った。
その疑問を口に出さずにドアノブを握ると、「課長」と芦原の声が響いた。
声を出さずに目だけを向けると、「さっきの返事は?」と問い直す。
俺の胸のうちにあるものを教えて下さい…と言われたんだった。
こっちはいきなりの言葉に戸惑って、何と言えばいいかを迷ってたんだ。
「私、課長のことが気になり過ぎて、この週末もずっと気づけば考えてばかりでダメだったんです」
告白とも受け取れそうな言葉を吐いて、パンケーキを食べ過ぎたのもその所為だと言う。
彼女の体調の不具合が、俺の所為だと言われるのも変な話なのだが……。
「木曜日の夜にかかってきた電話の後、急にご実家に帰られたし、今日は朝からずっと自分を追い込むように仕事されてたでしょう。何かあったとしか思えなくて、どうにも気になって仕方なくて……」