『コーン』な上司と恋なんて
ある意味上手に期待を裏切られながら中に入ってみると、和風な雰囲気が店内には広がっている。


小上がりになった場所には畳の敷かれた座敷があり、照明には和紙で作られた提灯カバーが取り付けられている。

テーブル毎に衝立てが置かれ、客同士が顔を合わせないように目隠しされているのも人気の一つらしいと思えた。



俺達は座敷の一番隅に案内された。


芦原が「あまり目立たない席にお願いします」と言ったからだ。


靴を脱いで座敷に上がり、壁側の席に座ろうとしたら、「反対側へどうぞ」と言う。



「そっちにいたら入ってくる人から顔が丸見えです」


オフィスの女子にも人気の店だと言い、とにかく見つかりたくないらしい。



「念入りだな」


またしても呆れつつ席を代わり落ち着いた。


「課長は何を食べますか?私は既にこれに決めてるんですけど」


メニューの一番最初にある刺身の盛り合わせ定食を指差し、「お得なんですよね」と微笑む。

刺身の他に茶碗蒸しと小鉢が付き、デザートとしてミニぜんざいが付くそうだ。


「ご飯は炊きこみと白ご飯のどちらかを選択出来るんですよ。飲もうと思えばアルコール類も充実してます」


店員並みに詳しい芦原の言葉に「じゃあ炊き込みにして同じに物を頼むよ」と言った。

土日はさすがに実家で刺身は食べなかった。

「生物はやめようね」と、母がそう言ったからだ。


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