『コーン』な上司と恋なんて
「仲がいいんだ」


課長はそう言うと2杯目のビールジョッキを持ち上げた。


「普段はケンカばかりしてますけどね」


悠生にお菓子作りを教え込んだのは私だと嫌味を言われる。

『虫歯になったら責任取ってよ!』と脅されることもしょっちゅうだ。


「ミィに関することだけは結託してくれたんです。姉も猫が好きでしたから」


面倒も一緒になって見てくれた。でも、ミィは私に一番懐いてた。


「私、今でもミィに首輪を付けた日のことを忘れられないんです。赤くて小さい鈴の付いた首輪でした」


三色の毛色に映えて可愛かった。
大人猫だったけど、私の前では子猫のように振る舞ってくれた。


「一緒の布団に入ってきたりして。そんなことするのは私にだけでした」


「芦原さんの方が親猫みたいだね」


課長の声に胸が鳴り、「ホント、そんな感じでした」と言ったら涙が溢れた。


グスッと涙ぐんでたら頭の上が重くなった。

何故だろうかと顔を上げたら、課長の手が私の髪の毛を触ってる。



「よしよし」


まるであの日、稲荷神社で見た光景のように思えてきて、ボロボロと涙腺が崩壊してしまった。

愛犬を亡くした課長の気持ちがわかり過ぎて、堪らなく悲しくなった。


課長の飼ってたワンコは、きっと課長の優しさを知ってたんだと思う。

どんなに離れて暮らしてても、課長のことが一番大事で大切だと思ってた筈だ。


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