『コーン』な上司と恋なんて
御守りをあげた時の課長のテンションの低かった理由がわかった。

それを悟られまいとして、自分のプレゼントを要求して誤魔化したんだろうと思う。



「謝ることじゃない。本当に嬉しかった」


課長はそう言うと、「もう泣かないで食べよう」と言った。

頭から手を離し、お膳に置いたままの箸を取り上げて向けた。


「さっきまでお腹空いて歩く気力もない程だったろう。しっかり食べないと帰れないぞ」


帰れなくなったらおぶってくれますか?…と聞きたくなった。

課長から箸を受け取って、「そうでしたね…」と目尻を拭いた。


古手川課長は何も言わずに微笑んだ。

それだけなのに、私の気持ちは急に課長の元へと擦り寄っていく。


金澤さんという相手がいるというのに、どうしても気持ちが抑えきれない。



「課長…」


そう呼んだら目の前にいる人が顔を見せた。

鼻の頭がさっきの涙で赤くなってるままだ。


きゅん…と胸が疼いて苦しい。

これを恋だと言わずに何と言えばいいんだ。



「何だ?」


冷静そうに聞こえた声にハッとした。
課長にとって私は、出来の悪い部下でしかない。


そんな部下の話を無駄に聞いてくれたんだ。
愛犬を亡くして疲れてるのに、私のワガママを聞いて付き合ってくれてる。



「いえ…今日はありがとうございましたと言いたくて」


他にも言いたい言葉あるけど、課長に言っても迷惑なだけだ。


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