契約彼女にした理由
「葉月、駄目か?」



学の不安そうな声に私はじっと目の前にあるカシスオレンジを見つめる。



「………学、結婚の話は忘れて。」


「………俺は………。」


「学、今のままで良くない?無理に挨拶する必要ない。」



学の言葉を遮った。


学は私と同じで家庭環境に問題を抱えているように思う。


学は父親の話をしたがらない。私の母の話のように――――



「お互い話たくない事だってある。学だって結婚に夢なんて抱いてない。違う?」


「それは…………。」


「今のままで良くない?無理しないで。」


「…………。」



黙り込んだ学を見上げて微笑んだ。



「私は今のままでいい。先の事なんて決めなくていい。」


「俺は………。」


「今のままでいい。こうして隣にいてくれれば…………。」



学から視線を外した。



「俺は葉月の隣にいる。」



学の言葉に心が満たされる。



隣にいて………今だけは…………。
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