契約彼女にした理由
「吉良さん、これなんですが……。」



聞こえてきた声に現実に引き戻された。



「うん、どれ?」


「作成の仕方がよく分からなくて。」



入社2年目の男性社員が聞いてきた。私は手に持つ資料を覗き込んだ。


私も入社5年目だ。教育係もやる年齢になってきていた。



「これは…………。」



自分のPC画面を見せて教える。真剣な表情で話を聞く彼に説明を続ける。



「吉良、午後から出掛ける。」


「はい。」



また課長の声に私は大きく頷いた。



「吉良さん、期待されてますね。」


「えっ?」


「課長、今朝から吉良さん指名ばかりだから。」


「たまたまよ。」



私は教え終わると自分の作業に取り掛かった。


こうして仕事を始めれば、学の事を考えなくて済む。


だけど家に帰れば学の声が聞きたくなる。学に触れたくなる。



「ふふっ、結構、重症よね………。」



小さな一人言を呟き、仕事モードに切り替えた。
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