目を閉じてください
広い広いエントランスの、受付、濃紺のハットにスーツ、スカーフを巻いた、恐らくコンシェルジュの女性2人が、慌ててぱくぱくしながら立ち上がる。
目の前の、あまりに衝撃的な光景に、言葉も出ないようだ。
この高級なビルの関係者らしいイケメンが、いかにも庶民の、見ず知らずのリクルートスーツ姿の若い女。
自分で言うのもおかしいけれど、言ってみれば馬の骨。
『それ』の手を持ってロビーを足早に歩いて行く。
うわあ!!
えらいこっちゃあ!!
なんなら去り際遠巻きに、1人は悔しさにハンカチを噛んでいるようにも見えた。
そして。
近付いてよく見ると、衝立の影にそれはあった。
正面からは、2メートル近くはあろう豪華な、もちろん造花ではなく生花をアレンジした、高そうな輸入物の壺を置いた壁にしか見えなかった。
エレベーターの目隠しの、柄の入ったシルバーのお洒落な衝立だったのだ。