目を閉じてください
13
結局、食事をすることもなく、タクシーを拾ってくれて家路に着いた。
―――最低なのは私の方だ。
どうかしていた。
婚約者がいると聞かされてから。
手の届くはずのない、友人の一人にすらなり得ない真部さんを。
打ってしまった掌が痛くて、いや。もっとずっと痛いのは、
―――私の胸。
締め付けられた。
何ということをしてしまったんだろう。
理由もなく人に手を挙げる人ではないはずだ。
確かに一日二日会っただけで本当のところなんてわからないし、人柄や人間性を見抜く力はまだない。
でも。
本能が。
彼はそんな野蛮な人間じゃないと認めている。
それなのに。
理由も確かめずに勢いで打ってしまった。
「文李??帰ったの??」
お母さんの声も耳に入らない。
ぼんやりしたまま、お風呂に飛び込むと、ひとり、シャワーを全開にして声を抑えて泣いた。