不審メールが繋げた想い

時間を空けて繰り返される行為に、変なドキドキが止まらない。

「しょ、衝動が過ぎます！これ…」

なにか探られないようにと思って放った言葉じゃないからね？

「…結婚って、どういう風に考えてる？」

え、あ、ちょっと、私の話、聞いてます？…本当、…実は自己中？ですか？

「え？あ、…結婚、どういう風って聞かれても…漠然とした聞き方ですね」

そんな質問されても、日頃考えてもないのに。

「そうだね、俺が漠然としているから」

あ？えーっと、冒頭に確か、結婚したいって言ったと思いますが？…それは漠然としたモノって事ですか？…そうなりますよね。そんな程度のもので、結婚したい？…一体どういうつもり？

「結婚は……私にとって結婚は、あるかないか解りませんが…穏やかなモノですかね。捉え方は年齢でかなり違うのではないでしょうか。若くして結婚すれば、甘くてドキドキしたモノを長く継続したいと思ってたかな」

何も知らない年齢。夢や理想ばかり。そんな風な結婚を想像した時期もあった。好きな人と暮らす…どんな事も夢見がちですから。もう、かなり昔のことだけどね。

「…今は？」

今は……んー…。いい歳はしてるけど、結婚に意識はあまりないのだけれど。もしもの話なら。

「今の年齢での結婚なら…、信頼出来る人と…思いやりを持ちながら、譲る部分は譲り合って、補い合って、確かなモノで繋がっていたい、かな、です」

「うん、…結婚しよう」

「はい？…ぇえ？」

…また…そんな…。

「はぁ…俺もそう思う。その考え、全く同じ考えだ」

ねえ、合わせてます？私に。それは、こういうのって狡い意見だと思います。本当、狡い…。

「待ってください。それ、まずそれです。その、何故、結婚なんです？結婚なんて…」

「何？…恋愛したいって事？それが抜けてる？」

恋愛…。Ｙさんと恋愛…。有り得ない。有り得ないよ。

「…違います。そうではなく。それは置いておいて。結婚の前には恋愛でしょ、ではなく、今はそれではなく、何故、結婚話を、私に、です」

「…恋愛はしたくないのか……」

「え？」

なに？…なにを言ってるの…。

「……あ、詩織さんがいいから、だからです」

もう、本当に…きりがない。

「だから…、何も知らないですよね？」

「全て知ってないと駄目なのかな」

「えﾞ？」

何を言っているのか…。結婚でしょ？

「結婚なんて大事な事、全く知らない人間となんて恐くないですか？」

軽く考えてるの？……そんな人？

「初めは誰だって何も知らない。出会いってそういうモノだよね。知って行くのは今からでいいんじゃない？一目惚れって、まさにそうじゃないの？誰かに植え付けられた予備知識なんて信じられる？それはその人が感じた印象だ。始めてから自分で感じて知ればいい事だ。お見合いだって、好きになるかどうかは会ってからの事だろ？写真を見て一目惚れするかも知れない。本当の人柄が解るのはそれからでしょ」

「そんな…。仮にそうだとしても、その相手が私でなくてもいいはずです」

そうよ、ここがおかしな部分なのよ。

「いや。いくらなんでも…いいと思わない人とは始められない」

いいと、思った？…そんな言葉、どこからそうなるの…。私をいいと思ったって…どうやって？

「はぁ…では…、いいと思った基準は何ですか？」

そうよ、これよ。言えるのかしら？

「相性」

「あ、相性？！相性なんて…それこそまだ何の相性も解らないです」

…はぁ。

「詩織さんと俺の名前と生年月日、相性が抜群にいいんです」

「そ、それだけでいいと決めたんですか…」

はぁぁ。つまり基準は…占いって事よね？……。

「…考えられない…」

それ、密かにファンがやって喜ぶ事でしょ？そんな事で、それを信じて？貴方のような人が私を選ぶの？

「厳密に言ったら、だけって訳じゃないけど……いいと思うよ」

はぁ…もう、呆れて言葉が出ない…。

「何より、詩織さんは俺の事を好きですよね？ずっと長く好きでいてくれている、今もずっとです」

「それは…」

「違うの？」

あ。……。覗き込まれても。

「ち、違わないけど…厳密には…違います」

「…好きの意味が違う？」

頷いた。そう。良く解ってるじゃないですか、その通りです。貴方は対象になんてならない人じゃない…。

「そうです。好きといっても、手の届かない人だと解って思う気持ちは、私の貴方を好きだというのは…諦めを持っての好きですから」

現実的な好きとは全然違うモノ。ときめいたってドキドキが違う。別物なのよ。

「なら諦めのない好きに変えたらいいだけだ」

「はぁ…、そんな…確かに理屈ではそうでしょうけど…。そんな…無理です。人の気持ちを簡単に言わないでください。そういう風には思えない。貴方はそんなところに居る人です。今だって目の前に居て話している事が現実とは思えないのに…。そんな存在の人に対する、好き、の感情なんですよ？そんな好きでも、私が好きなら…それでいいって事ですか？」

「いいに決まってる。嫌いじゃないんだ。俺の事を好きだと思ってくれているんだから」

…はぁ、どうしてなの…解らない…。それはだから、ファンとしての好きだって言ってるのに。全然伝わらない。違うって言ってるのに…どうして…。とんでもない事を言われ続けている気がする。はぁ、もう解らな過ぎてこっちが可笑しくなりそう…。好きだけど好きじゃないって必死で拒否してるのが解らないんだろうか。

「…だったら私に断定せず、相性のいい人…外に探せばいいじゃないですか…。名前、生年月日でいいなら、私よりもっと相性のいい人、居ると思います。詳しく書かなくても募集したらいいじゃないですか。ホームページ上でも何でも、何か尤もらしい理由を付けて。そういうの、芸能界なら難しいことじゃないですよね？とにかく、こんな話、可笑しいです。何故、私が結婚しないといけないの…そんな事…恐すぎる。お断りです」

騙されるもんですか。何かあるのよ、可笑しいでしょ。
椅子に置いてあるバッグを手にドアに向かった。

「待って！まだ話は終わってない」