不審メールが繋げた想い

やはり真さんからメールが返って来る事は無かった。忙しくても、ちょっとだけでいいから連絡してくれないものだろうか。
…わざと携帯を持たないようにしてるとか?ただのほったらかし?
それとも…何か事情があるのかな。
真さん自身が体調不良とかなら、各務さんが教えてくれそうなものだし。
だから、それは無いよね…。う~ん。どっちにしろ何も無いままなのは現状維持のままって事なのかな…。全然解らない。


「先輩?指輪、しないんですか?」

「えっ?あぁ、あの時は、うっかりしてただけだから、職場ではしないわよ?…」

あんな仰々しいモノ、…とんでもない。

「そうなんですか?それでぇ、結婚はいつになったんですぅ?」

「ぇえ゙?」

…何?何を言ってるの?ユミちゃんは私が自分で買ったと誤解してくれてたじゃない。

「フフ、あんな、ザ、婚約指輪、みたいなの、自分では買わないでしょ?ね?ね?それで、いつなんです?」

「ユミちゃん…」

結婚て…違うのよ。

「大丈夫です、安心してください。誰にもな~んにも言ってませんから」

「違うの、違うのよ。本当にあれは違うの。誤解よ?」

「いいんですよ、別に。そんなに一所懸命否定しなくても」

「…だから、…違うの…」

二人だけだと思っていても誰に聞かれているか解からない。声はなるべく抑え気味によ。

「じゃあ、なんであんな指輪?」

「あのね…ちょっと、あるの」

そこは本当のことは言えない。

「え~、意味不明~」

「そう、意味不明なの」

「益々、意味不明~」

だって仕方ないのよ。いくら何でも本当の事は言えないし。言ったところであまりにも現実離れした話…本当のことを話すのが嫌で、嘘をついてるって、なっちゃう。誤魔化しの嘘とも思ってくれないような事…。

「あ゙、…もしかして…。婚約破、棄、されたんですか?でもまだふっ切れなくて、だから指輪してたとか…」

あ、いきなり飛躍し過ぎよ…そんな事じゃないんだけどね…。はぁ、それも違うから…。

「あ゙~、ごめんなさい。だとしたら凄い余計な事…無神経にデリケートな事を強引に聞こうとしてたんですね私…やっちゃった~」

「あ、いや、大丈夫よ?本当に大丈夫なのよ?」

…違うんだけど。こんな言い方では否定にもならないから、完全にそう思われてしまうわね…。
まあ、悲劇のヒロインくらいに勘違いしてくれたままなら、誰にも言わないだろうから。このまま有耶無耶でもいいのかな…。んー。そうしておこうかな。

「そう言えば、メールの事、解決してから後、何だかずっと元気無いですもんね…。気がつくべきでしたね、私」

…よく観察してること…、侮れないかも。
それはそれで、また違った元気の無さなんだけどね…。それも言えないし。

「元気よ?普通よ普通。本当に何でも無いんだから」

「先輩…そんな風に無理しないでください。何でも全部話せる訳じゃないですもんね」

…だから、違うんだって。はぁ、うっかり指輪なんかしてたばっかりに、ややこしい誤解に発展してしまった…。

「…はぁぁ」

…あ、いけない。

「…ほら、溜め息だって出るくらいですから。明日から、もっと美味しいチョコ、持って来ますからね。ご飯にもつき合います。気晴らししたい時は言ってください。私、空いてますから。お酒は駄目ですけど、でも、とことんつき合いますよ?」

…はぁ。暫くはこの子に励まされ続けるのね。…そうしとこうかな。

「うん…有難うね」
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