不審メールが繋げた想い
ピンポン。
「叶さ〜ん、お届け物で〜す」
「は〜い?」
お届け物って…。また、そんな覚えはない。
カチャ。あ。
「こんにちは」
「お世話様です」
またこの間の配達員さんだ。…そうか、担当エリアって事か。ん?何だか、箱…多くない?全部、うちなのかしら。隣の部屋の分とか?
「えっと、お届け物、三個あります。お名前、間違いございませんか?」
やっぱり全部なんだ。
「はい、えー…、はい、大丈夫、です」
…でも。心当たりはない。自分にご褒美のような物も買ってない。
「では、受け取りのサインを…はい、それぞれお願いします」
「あ、はい。はい、はい…はい」
三枚扇状にして一つの箱を下敷き代わりにして持ってくれた。今日は一気に判子をついた。
「有難うございます。では…、ちょーっと重いですが、重ねたままで大丈夫ですか?あ、ドア、押さえますんで」
背中でドアが閉まらないようにしてくれた。
「はい、あ、ホントだ…ちょっと重い、でも大丈夫です、有り難うこざいます」
「ドア、…では、離しますよ?…シーズンですね」
「え?」
ドアを掴んでくれていた。
「今日はクリスマスイブですから。ギフトの配達も多いんです」
あ、…、そうね、うちの荷物だって、何だか知らないが…多いんだよね。これもクリスマス関連?なのかしら?配達側からしたら目的云々より、今日の配達が集中的に多いってことが現実よね。申し訳ないな…。
「何だか、ごめんなさい、ご苦労様です」
「いいえ。仕事ですから。有難うございました」
「あ、メリークリスマス?」
「あ…、メリークリスマス。…毎度ぉ」
また帽子のつばをちょこんと摘んで駆け足で帰って行った。…彼女とクリスマス、過ごすのかなぁ。仕事、遅く迄なのかも知れないわね。本当ご苦労様です。感謝しなくちゃね。
それにしても…。要冷蔵?の物って事は食品。これが重いのね。天地無用とか貼ってあるし…。よいしょ…。あと二つは普通…。雑貨?どれもこれも、送り主がまた私?
どういう事?…何となく、このパターン、。過ぎるモノはあるけど…。
RRRRR…。あ、はいはい。躓きながらサンダルを脱ぎ部屋に戻った。
取り敢えずテーブルに荷物を下ろした。
…各務さんだ。
「はい、叶です」
「詩織さん?荷物、もう来ちゃいました?」
…やっぱりだ。
「はい、たった今。あの、これは…」
「…はぁ、また、連絡が後からになってしまいましたね。時間帯に幅があるのにちゃんとしてますね、そちらの配達は遅れない。早いですよね」
「あの、各務さん?」
「はい?」
「全部各務さんですか?」
「全部?…全部とは?」
ん?あれ?
「あの、三個届きましたので、その全部が、ですか?と、思いまして」
違うのかな。
「三個?いいえ、私からは一つだけですよ?」
「え?」
一つだけ?どれが?この記入の仕方だと、各務さんしか居ないと思ったのに。だとしても多いか……じゃあ、残りの二個は?
「あぁ、きっと真だと思いますよ」
「真さん?」
それは…。
「真さんは…」
「あー…多分…、そうじゃないかと思ったので、です。勿論、確認した訳ではないですが。他に詩織さんに心当たりがないのなら、です。…違うかな」
真さん、今日来るはずなのに…?これが真さんからの物なら、わざわざどうして…、送ったりして。…荷物になるからかな。購入した先から送った方が都合がいいからかな…?そういうことか…。
「あ、詩織さん?私のは割と軽くて小さい箱ですが、中身は…と、これは、開けて貰った時の楽しみがなくなるので内緒ですね。似たような大きさですか?他の物も」
「いいえ、要冷蔵の物はかなり大きくて、後一つは大きいっていう程でも…みたいな感じの箱です」
我ながら…解かり辛い表現だわ。大きさを例えなきゃ解からないって。A4くらいとか。例えようがあるでしょうに。
「フ。では言わなくても大丈夫かな」
「はい、大丈夫かと。あ、各務さん、これは…」
「クリスマスですからね。お知り合いになりましたので。私も一人ですが、詩織さんも、現在はお一人ですから」
…家族、…身内の事を言っているんだ。一人きりの私に気を遣ってくれたんだ。…本当に…気配りの徹底した人だ。あ、……え?そんな話は…。あぁ、“彼”も居ない『お一人』って意味か。
「各務さん…」
「私、天涯孤独なんですよ?各務末広なんて縁起の良さそうな名前をつけて貰ってますが、家族の縁に関してはどうやら薄いようです。あ…、すみません、いつもいつも…。呼ばれているようなので、これで失礼します」
「あ、私、…」
まだお礼を言ってない。
「メリークリスマス、詩織さん。では」
「あ、はい、メリークリスマス…あ」
…はぁ、言えなかった。電話の後ろがずっとざわざわしていて賑やかだった。クリスマスパーティーかな…、話に聞く、ドラマの撮影の打ち上げとか…なのかも知れない。
各務さんも、プライベートでクリスマスってないのかな…。