不審メールが繋げた想い

各務さんの話によると、真さんが『結婚』した相手は予てより噂を作っていたあの若い女優さん。
仕事上の関係で男女の関係は無いと言っていたあの人だと言う。二人の挙式を週刊誌にリークしたのはその女優さん本人だと。噂の決定的になるモノが欲しかったから。初めから彼女によって仕組まれたモノだったと言った。
…どこまでが事務所が関わった話なのか。この話がこういった形で世間に出る迄に真さんは私と結婚しておく必要があった訳だ。危ないと予見していた。だから、お母さんはあんな言い方をしたんだ。真が急がせてしまって、と。
何が、どこまでが本当なのか、整理がつかない。真実は何、どこにあるの。その人との結婚が本物って事…。

「真がクリスマスに挙げた式は嘘です。事務所も無関係です。そんな事実はありません」

「……え?…でも…」

「記事に写真なんてなかったでしょ?撮ることだって出来ません。挙式をしたという、話だけの持ち込みだからです。どこにも式を挙げた事実はありません。挙式が嘘ですから。真は、これで最後だからという彼女の望みに応えただけです」

え?まだ全然解らない…。理解できない。嘘は嘘だけど、週刊誌に持ち込んでいいって、承諾したの?……。事務所は関係ない…なら、式はやっぱり本当で、二人で挙げたのでは…。

「私、整理がつきません。頭が全然…回らないです」

「……元々の、つき合っているという話題作りの時から…、嘘を装うつもりが、彼女の方が真を好きになった。元々、彼女は真に好意はありました。それは誰が見ても解っていた事でした。だけどそこはプロに徹しないと駄目です。売る為にする事だと決めたのです、感情移入してはいけない。演じ切らなければいけなかったのです。だけど彼女はそれが結果として出来なかったんです。自分の、真に対する気持ちの方を取ったんです。事務所同士の約束はとうに終わっているんです。本当を装って色々と接触している内、益々好きになったのでしょう。彼女にとっては演じる必要はなかった。素で良かった。感情がそのまま態度に出て…それが上手く人の目に映った。これ以上ない『演技』です…始めから危険ははらんでいた。……はぁ、若い子は時に無茶をする。周りが見えなくなってね。どんなに言ってあっても、何を突然言い出すか解らない。何をするかも。
気持ちを察すると切ないですね、…やる瀬ないです。解らない事はない。しかし、した事は良くない事だ。
この業界は嘘も上手く事実にされてしまうような世界です。利用したりされたり…。釈明が釈明にならない事だって、気の毒だけど沢山ある。本当の事が言えない時もある…。仕方なく辞めざるを得なくなる…。
クリスマス、私と居てと言う彼女の最後の願いを、真が飲みました」

挙式は嘘…。はぁ…、でもクリスマスは二人で過ごした。そうと決まったから、クリスマスプレゼントを送って来た訳だ。口外出来る話ではないから、来られない訳を私にも詳しく言えなかったという事か…。巻き込みたくなかったのかな…そう思えば……どこから何が洩れるか解らないから。ですよね…。フ…でも…私は、信じてもらえてなかったのかな…。来られない訳を言ってくれても誰にも言わないのに…。念には念を、という事なのかな…。何だか…寂しい話…。

「誤解の無いように言っておきますが、クリスマスを一緒に過ごして欲しいと言われたからといっても、二人の間には何もありませんから。クリスマスディナーを一緒にして、スイートに宿泊した。アルコールに…、彼女は普段飲み慣れていないようで度数のそう強くないシャンパンを飲んで、酔ってぐっすり寝てしまいました。初めは少し飲んで…酔った振りでもするつもりだったのでしょうね。…甘えるつもりで。上手くはいかなかった。でもそれで良かった。後は全てが夢の中、甘い…理想を夢見た、夢です。本人は朝まで一緒に過ごしたと思っている。何もしてなくても何かあったと思っている。…そう思いたい。
真は彼女が目が覚める頃に部屋に入り、ベッドに腰掛け待っていた。そして、おはようと言えばそれでOKです。酔って介抱したからといって、同室で一晩過ごすなんて、そんな軽はずみな事はしない。そこまでは…させません。真は別室です」

それは……、そうだったと、聞かされた話ですよね?…各務さんはその日その場に居たわけじゃないでしょ?。

「何もかもが彼女の想像通りになればいいんです。何もなくても…、望み通り叶えられたと思い込むのも凄いですが…。全ては恋愛に対する憧れです。望むモノは幻想で終わりました。イブの思い出です」

ユミちゃん、凄い。挙式は実際なかったらしいけど、若い子の気持ちを解ってる。

「…本人だって、虚しい事をしているって、きっと解ってましたよね。それでも、どうしても好きな人と二人、誰もが羨むクリスマスを過ごしたかった…それだけでも、思い出が欲しかったんですね…」

強引かも知れない、我が儘かも知れない。みんなに迷惑をかけてしまう…。それが解らないはずはない。でも、自分の気持ちにはもの凄く正直だ。今の年齢だからこそ、無茶をしても欲しい恋のときめき…。もうこの仕事は諦めたのかも知れない。仕事より恋…。情熱…。案外あっさりと辞めてもいいと思ったのかもしれない。芸能界とYさんを秤にかけたら……そこまでは考えてなかっただろう。…Yさんが良かった。それのみだろう。…はぁ。
…そんな若い子の真っ直ぐな気持ちを、真さんは大事にしてあげたのかも知れない。最終的には残酷かも知れないけど…出来る範囲で…。
優しいけど……何だか…、んー、まあ…本当の本命が居れば相談なしにはできないこと…。相談されても…。容認できることではない、と思う。そんなこと、止めてほしいと言うだろう。

「これ以上、後追いの記事は出ません。ないモノは書きようがないからです。それで、いきなりなのですが。詩織さん。私と結婚してください。どうでしょう」
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