不審メールが繋げた想い
・エピローグ
大通りで手を上げ、タクシーを停めた。
一台のタクシーが目の前に来てドアがスッと開いた。素早く乗り込んだ。
「すみません…あっ!」
「あっ。あの時のお嬢さんじゃないか」
もう、本当の意味でお嬢さんと呼ばれる年齢ではないけど…。このお爺さん運転手からしたら、私はうんと若く見えるのかも知れない。…選りに選ってこんな日に乗車するなんて…縁というか、偶然はあるものなのね。
「今日はどちらへ?」
「覚えてますか?以前乗せて貰った教会のある通り。そこに行きたいんです」
「はいはい。お嬢さんを覚えてるんだから、覚えてるに決まってるでしょ?よし、任せてくれ。また裏道を通って早く着けるからね」
「普通で大丈夫ですよ」
「いや、お嬢さん達の仕事は大変だからね〜。今日は何かい?誰かの結婚式に出席かい?
…もしや、お嬢さんの?」
まだ私のことを芸能人だと?…だから、私は芸能人ではない…。
「はい、そのもしやです」
「お…じゃあ、…あの時の男前とは駄目だったのかい?訳ありそうだったけど、末永く上手くいくと思ったんだがね。いや〜、おじさんはお似合いだと思ったんだがなぁ、可笑しいなぁ」
スピード離婚てことになるのかしら…訳ありそうに見えてたなら駄目になる可能性、大なのでは……それに、あの時だって結婚してませんから…。
「おじさん、誰にも喋らなかったって解ってくれただろ?お客さんの秘密は厳守だからね」
…喋ったとしても私は芸能界には存在しない人物ですから…。あ、でも、各務さんはあのとき…。
「今度の相手も芸能人なのかい?」
「…男前ですよ」
肯定も否定も。それだけ言っておこう。そうすれば、あとは勝手にニュアンスで話をしたらいい。
「そうかいそうかい。お嬢さんはモテるんだねぇ。まあ別嬪さんだから、引く手数多って事かな?」
「どうでしょう?」
「お、いいね。そのちょっと気の強そうなところ。おじさんのタイプだな。どうだい?もし今回駄目になったら、おじさんのところに嫁いで来るってのは。こう見えてバツの無い独身だ、ハハハッ、待ってるよ?」
「はい、こうしてタクシーでお会いしましょ?」
「いいねぇ。受け流しが上手いじゃないか~」
そうしておくのが一番だって…教わったから。
「はい、ご乗車有難うございました。着きましたよ」
「有難うございました。おいくらですか?」
「いいよいいよ、今回はおじさんからの御祝儀だ。ご祝儀にしてはちょっと少ないけどね。まあそこは気持ちだ。縁起の悪い事も言っちゃったし。今度は上手くいくようにね」
「でも、それでは運転手さんが困るでしょ?」
「一回だけの事だ、大丈夫大丈夫。さあ、早く行きなさい。大事な人は待たせては駄目だ」
…そんなに急かなくても充分間に合っている。
「有難うございます。名刺を頂いてもいいですか?次、タクシーを使う時はおじさんを指名しますね」
「おぅ、有難うな。幸せになるんだよ?お嬢さんが幸せなら相手も幸せってぇもんだから」
「有難うございます」
ふぅ…支度は整った。
コンコンコン。
「準備は出来た?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ…、行こうか」
「…はい」
扉の前、腰に当てた左腕に腕を回した。…二度目だ。
「はぁ、こんなの…何だかドキドキして来たよ」
「私もです」
扉が開いた。赤い絨毯の先。待って居るのは神父さんとこちらを見ている新郎。
「ふぅ…、行きますか」
「はい、お願いします」
一歩、また一歩と歩みを進める。はぁ、急激に色んなモノが込み上げて来た。涙もろいのは年齢のせいかもしれない。
「…泣いては駄目だ。まだ我慢しないと…、折角綺麗なんだから崩れてしまうだろ?」
「はぁ…。はい」
あと少し。もう少しで新郎の元へ。
回していた腕をそっと解かれた。
「幸せにならないと承知しないからな、って一応言っておく」
「クスッ…はい」
三人だけの挙式。あ、四人。…あ、五人だった。解かれた腕を新郎の腕に回した。
「何をブツブツ呟いていたのですか?」
「え?フフ。三人だけの挙式だって思ってたけど、…神父さんが居たって思って」
顔を寄せ合った。
「…それから?それだけではなかったでしょ?」
「はい、フフ。それに支度を整えてくれたお姉さんも居たって、思い出しちゃった」
「何だ…、私はハッピーなお知らせかと思ったんですけどね」
「え?あ、違う違う。それは…正真正銘、まだです。解ってて…まだに決まってるでしょ?もう…知ってるのに…」
「…どうですかね。一々報告がある訳ではないですから…」
「…もう、ありえないでしょ?疑わないでください。あ、それとね、前にここから乗せて貰ったタクシーに偶然乗ったの、凄くないですか?」
「ほお、あのおじさん、相変わらずでしたか?」
「そう、勘違いしたまま。また色々話し掛けられて。だから逆らわずに流れのまま話しておきました。運賃は御祝儀だって言って払わせてくれなかったんです。だからね、タクシー使う時があったら、あのおじさんを呼んでね、名刺、貰ってるので後で渡しますね」
「ああ、解ったよ」
「ん゙ん゙。睦まじいのは大変結構な事ですが、お二人共…、静粛に。そろそろ始めますよ?」
「はぁもう…、パパッとキスしてOKでいいんじゃない?」
「ん゙ん゙。…立会人も静粛に」
…。
「ん゙ん゙。では、…誓いのキスを」
「え!」「は?」「お゙!」
…どうする?みたいに見つめ合った。…恥ずかしい。
「では……いい?」
「はい…いいですよ」
うつむき加減だった顔を優しく包まれ上向かされた。あ…顔が近付き、…瞼をゆっくり閉じた。……ん?…んん?。
あ~あ~、しちゃったよ。神父も神父だけど、言われたからってするかな普通…。しかも俺の時より目茶苦茶長いじゃないか…。指輪の交換も後からって事だな…。あ、宣誓もまだだよ…。
各務と詩織は式を挙げた。籍は入れない。
各務、これってまだ…状況は俺と同じって事だよな。
一台のタクシーが目の前に来てドアがスッと開いた。素早く乗り込んだ。
「すみません…あっ!」
「あっ。あの時のお嬢さんじゃないか」
もう、本当の意味でお嬢さんと呼ばれる年齢ではないけど…。このお爺さん運転手からしたら、私はうんと若く見えるのかも知れない。…選りに選ってこんな日に乗車するなんて…縁というか、偶然はあるものなのね。
「今日はどちらへ?」
「覚えてますか?以前乗せて貰った教会のある通り。そこに行きたいんです」
「はいはい。お嬢さんを覚えてるんだから、覚えてるに決まってるでしょ?よし、任せてくれ。また裏道を通って早く着けるからね」
「普通で大丈夫ですよ」
「いや、お嬢さん達の仕事は大変だからね〜。今日は何かい?誰かの結婚式に出席かい?
…もしや、お嬢さんの?」
まだ私のことを芸能人だと?…だから、私は芸能人ではない…。
「はい、そのもしやです」
「お…じゃあ、…あの時の男前とは駄目だったのかい?訳ありそうだったけど、末永く上手くいくと思ったんだがね。いや〜、おじさんはお似合いだと思ったんだがなぁ、可笑しいなぁ」
スピード離婚てことになるのかしら…訳ありそうに見えてたなら駄目になる可能性、大なのでは……それに、あの時だって結婚してませんから…。
「おじさん、誰にも喋らなかったって解ってくれただろ?お客さんの秘密は厳守だからね」
…喋ったとしても私は芸能界には存在しない人物ですから…。あ、でも、各務さんはあのとき…。
「今度の相手も芸能人なのかい?」
「…男前ですよ」
肯定も否定も。それだけ言っておこう。そうすれば、あとは勝手にニュアンスで話をしたらいい。
「そうかいそうかい。お嬢さんはモテるんだねぇ。まあ別嬪さんだから、引く手数多って事かな?」
「どうでしょう?」
「お、いいね。そのちょっと気の強そうなところ。おじさんのタイプだな。どうだい?もし今回駄目になったら、おじさんのところに嫁いで来るってのは。こう見えてバツの無い独身だ、ハハハッ、待ってるよ?」
「はい、こうしてタクシーでお会いしましょ?」
「いいねぇ。受け流しが上手いじゃないか~」
そうしておくのが一番だって…教わったから。
「はい、ご乗車有難うございました。着きましたよ」
「有難うございました。おいくらですか?」
「いいよいいよ、今回はおじさんからの御祝儀だ。ご祝儀にしてはちょっと少ないけどね。まあそこは気持ちだ。縁起の悪い事も言っちゃったし。今度は上手くいくようにね」
「でも、それでは運転手さんが困るでしょ?」
「一回だけの事だ、大丈夫大丈夫。さあ、早く行きなさい。大事な人は待たせては駄目だ」
…そんなに急かなくても充分間に合っている。
「有難うございます。名刺を頂いてもいいですか?次、タクシーを使う時はおじさんを指名しますね」
「おぅ、有難うな。幸せになるんだよ?お嬢さんが幸せなら相手も幸せってぇもんだから」
「有難うございます」
ふぅ…支度は整った。
コンコンコン。
「準備は出来た?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ…、行こうか」
「…はい」
扉の前、腰に当てた左腕に腕を回した。…二度目だ。
「はぁ、こんなの…何だかドキドキして来たよ」
「私もです」
扉が開いた。赤い絨毯の先。待って居るのは神父さんとこちらを見ている新郎。
「ふぅ…、行きますか」
「はい、お願いします」
一歩、また一歩と歩みを進める。はぁ、急激に色んなモノが込み上げて来た。涙もろいのは年齢のせいかもしれない。
「…泣いては駄目だ。まだ我慢しないと…、折角綺麗なんだから崩れてしまうだろ?」
「はぁ…。はい」
あと少し。もう少しで新郎の元へ。
回していた腕をそっと解かれた。
「幸せにならないと承知しないからな、って一応言っておく」
「クスッ…はい」
三人だけの挙式。あ、四人。…あ、五人だった。解かれた腕を新郎の腕に回した。
「何をブツブツ呟いていたのですか?」
「え?フフ。三人だけの挙式だって思ってたけど、…神父さんが居たって思って」
顔を寄せ合った。
「…それから?それだけではなかったでしょ?」
「はい、フフ。それに支度を整えてくれたお姉さんも居たって、思い出しちゃった」
「何だ…、私はハッピーなお知らせかと思ったんですけどね」
「え?あ、違う違う。それは…正真正銘、まだです。解ってて…まだに決まってるでしょ?もう…知ってるのに…」
「…どうですかね。一々報告がある訳ではないですから…」
「…もう、ありえないでしょ?疑わないでください。あ、それとね、前にここから乗せて貰ったタクシーに偶然乗ったの、凄くないですか?」
「ほお、あのおじさん、相変わらずでしたか?」
「そう、勘違いしたまま。また色々話し掛けられて。だから逆らわずに流れのまま話しておきました。運賃は御祝儀だって言って払わせてくれなかったんです。だからね、タクシー使う時があったら、あのおじさんを呼んでね、名刺、貰ってるので後で渡しますね」
「ああ、解ったよ」
「ん゙ん゙。睦まじいのは大変結構な事ですが、お二人共…、静粛に。そろそろ始めますよ?」
「はぁもう…、パパッとキスしてOKでいいんじゃない?」
「ん゙ん゙。…立会人も静粛に」
…。
「ん゙ん゙。では、…誓いのキスを」
「え!」「は?」「お゙!」
…どうする?みたいに見つめ合った。…恥ずかしい。
「では……いい?」
「はい…いいですよ」
うつむき加減だった顔を優しく包まれ上向かされた。あ…顔が近付き、…瞼をゆっくり閉じた。……ん?…んん?。
あ~あ~、しちゃったよ。神父も神父だけど、言われたからってするかな普通…。しかも俺の時より目茶苦茶長いじゃないか…。指輪の交換も後からって事だな…。あ、宣誓もまだだよ…。
各務と詩織は式を挙げた。籍は入れない。
各務、これってまだ…状況は俺と同じって事だよな。