不審メールが繋げた想い


「はぁ、…仕方ないか。犯罪者になる覚悟はあるのか?俺もお前も首を覚悟だぞ。短時間だとは言え、何があるか解らない。そうする事がもう良くない事をしているんだからな。遠方だし、スケジュールの空きで、朝、あっちに居られるようにするにはキツイぞ。俺がキツイ。当然、とんぼ返りだ。予定が変更になったら時間に間に合わなくなるからな。良くて前日に入って、車を借りておいて…だから。どうせ少しでも早い方がいいんだろ?」

「ああ、勿論だ」

はぁ、こうなったら、気は逸るって事だ…。

「はぁ、聞くまでもなかったか。スケジュール確認するからちょっとは待ってくれよな。真、違うとは思うが、一応確認しておくぞ。からかってる訳じゃ無いよな?これは真面目な、真剣な話だよな?接触してから…途中で中途半端に止めるなよ?…相手に対して責任は取れるよな?」

「真面目だ、当たり前だ」

「解った」

スケジュールの空きは解ってる。でも少し時間が欲しかった。本人を見たいというより前に、諦めないといけない場合だってあるからだ。その為にも先に調査する時間が欲しかった。しーちゃんの事、少しだけ調べてみる事にした。真は純粋にしか考えていないから。人とつき合うのは構わないが、最低限、身辺にまずい事がないかくらいは調べておかなければ…。嫌な事だが、これは俺にとって真を守る為の仕事だ…。最小限のプロフィールに嘘はないとしても、配偶者が居たらどうする。それに近い人だって居るかもしれないだろ。


急かせた甲斐はあった。調査報告は直ぐに届いた。
叶詩織。三十九歳。未婚。家族…、親は既に他界か。親戚も居ない。兄弟姉妹も居ないんだな…。もうずっと一人きりだ。転職は無し。今の会社にずっと勤務か。長く勤めているな…それだけで尊敬する。えー、現在、親しくつき合っている異性は居ない模様、か。これは大事なところだ。勿論、独身だということもだ。頼みもしないのに写真が二枚添えられていた。…なるほど。まず特に心配は無いみたいだな。…ファンというのは時に度を越えて加熱するタイプが居るから。まだ解らないな…はぁ、危険は危険だ。自分の思い通りにならなかった時、好きだったはずのタレントを陥れようとする…。そんなファンも居る…。
調書は調書。人となりというのは、実際接してみないと解らないものだ。外面だけがいいかも知れないし。受け取る側の関係性、気持ちでも随分と印象は違ってくるものだ。
驕ったところが無く、きわめて穏やかで素直な性格。派手な感じはない、か。…ふぅ。これだって内面をどれだけ出しているのか…。俺がどう思うかは関係ない事だが、きっとどこかで寂しい人なんじゃないかなと思ってしまう。
……一人で頑張ってるって事は、辛さも寂しさも知ってる…、弱くても強くいないといけない。全部自分で乗り越えて来た訳なんだから。俺は…自分と境遇が似てるからといって……知ったようなことを…。きっと辛さを知ってる分、他人に優しくできる人なのだろう。本当は言いたくても強く物が言えなくて、もしかしたら流され易いタイプなのかも知れないな…。
取り敢えずは、人物にも身辺にも問題はなさそうって事だ。後は本人と接してみないと解らない、始まらない事だ。
< 71 / 80 >

この作品をシェア

pagetop