不審メールが繋げた想い
しーちゃんを確認する為、各務と共に前日から移動した。この日が来るのが待ち遠しかった。
駅に着きホテルに入った。各務が車を取りに行き、翌朝判明している住所にレンタカーで向かった。少し距離があった。
駐車出来るパーキングは住まいから離れたところにしかなかった。ある程度の時間までは行っても無駄になる。今日だけの一発勝負のようなものだ。頃合いを見て車から降りマンションに向かった。
街は静かだった。アパートやマンション、新旧の建物が混在していた。街路樹のある通りがここら辺りでは大きな通りのようだ。高い建物は百貨店…ショッピングモールもあるようだ。
通勤時間前だという事もあるのか、まだ人の動きも少ない。パラパラと子供達が学校に行く姿を見掛けた。どうやら近くに小学校があるようだ。自然豊かで、暮らすには環境の良さそうなところだ。ゆっくり見て回れないのが残念なくらいだ。
そんな中、…なんだ俺達は。完全に浮いてる。朝から中年の男二人、連れ立って。…多分怪しい。いや、かなり怪しい。それを逆手に取る事にした。いかにも“それ風”を装う事にした。
刑事だ。事件の少なそうなところではあったが、あたかも容疑者の様子を窺う刑事のように、道路脇の電柱の横に立っている事にした。これも怪しいと言えば怪しいのだが。ないところに事件を作ってしまうようなものだからだ。だけどやってしまえば…妙に馴染むものだ。二人していいコンビの刑事だ、ダークスーツの各務とカジュアルな格好の俺。出来すぎてるかもしれないが、やはりそれもそれっぽく見える一つの条件なのだろう。
ゴミ出しに出て来た奥さんが一瞬ハッとした顔をしたが、ご苦労様ですと言わんばかりにゆっくりと頷いた。通行人が増えて来ても何も問題はなかった。ただ俺達の前を足早に通り過ぎて行くだけだった。
「そろそろ動くかな。俺にしてみたら昔とった杵柄といったところかな」
各務が呟いた。どこから見たって格好のいい刑事だ。言葉に意識はなかったのだろうが、動くかな、とか言っちゃってるし。各務は今だって俳優としてだってやれそうな気がする。ただ、本人にその気がもうないだけだ。今の仕事が性に合ってるらしい。俺も各務だからやり易い。
「おい、真!出て来たぞ」
「あ、ああ」
「大丈夫か?」
「あ、ああ」
本物の刑事さながらだ。早口で囁いた各務の声に驚いた。そのせいだけではないと思った。急に心臓が早鐘を打ち始めた。いよいよだ。
玄関のドアがゆっくり開いて出て来る姿が見えた。この人がしーちゃん…。間違いないのか。ドアの大きさから判断して、身長は百六十センチ前後。かな。…適当だ。鍵を掛けている。階段に向かって歩き始めた。……あぁ、激しく動悸がする。煩いくらいだ。
あ、横顔だ。しかし…これじゃ…。
「各務、遠いな」
「は?これ以上は無理だろ、…納得しろ」
「ああ…そうだな…」
そうだけど…。しーちゃんは一つ溜め息をついたようだった。仕事の始まりが憂鬱なのか、何か悩み事があるのか…。大人だもんな色々あるよな。
思わず道を渡って向こう側の電柱の陰に走っていた。
「おいっ!…馬鹿…そっちは…近過ぎる…」
各務が潜んだ声で言い終わらない内に、階段を下り切ったしーちゃんがこちらに歩いて来ていた。
…ヤバい。…来る。