不審メールが繋げた想い


普段、芸能人ばかりを見ているからだろう。近くで確認したしーちゃんは凄くほっとする程自然な感じがした。あの柔らかい香りも香水ではない、きっと柔軟剤の香りだ。
薄いベージュのロングカーディガンに白衿のストライプのシャツ。濃いネイビーの膝下丈のスカートを穿いていた。…よく覚えている。優しい雰囲気だった。何の違和感も感じない。年相応だと思った…派手にしていないからだ。無理している感じがなかった。もしも隣に居ても、同郷の幼馴染のような、それが当たり前みたいな感じがした。
…自分に都合良く取り過ぎかな。

髪の長さは中くらいなのかな。濃い目の自然な茶色で、緩く編み込んでいて、後ろで残りの髪の毛がちょこんと丸まるように結わえられていた。纏め髪は仕事だからなのか。あの髪、解くとどんな感じなんだろう…。
アクセサリーの類はしていなかった。小さく目立たないピアスさえしてはいなかった。ピアスホールもなかった。指輪もしていなかったように思う。

すれ違った感じで、低めのヒールを履いていたから、やはり身長は初めの印象通りだと思った。
色が白かった…。薄いブルーのストライプのシャツ。ボタン一つ開けてあった首がスーッと長かった…。そうだ、ネックレスもしてなかったな。
少し俯き加減で歩く人だった。落ち着いたオーク色の、小さめのバッグの取っ手をギュッと握り締め、足速に歩いていた。それは、俺達のせいだったかも知れないが。
人の良さそうな柔らかい…話し掛け易い、そんな表情をしていた。慈悲深い…そんな、優しい顔立ちだった。自然と心惹かれる…俺の好きな顔だった。…この人だ。やっぱり、この人だ。普段、しもしないのに気がつけば胸に手を当てていた。ザワザワしていたからだ。
俺は間違いなく惹かれた。


コンコンコン。カチャ。

「真?」

「………ん、あ、お、おぉ、帰ったんだ、お疲れ」

「なんだ…早速もう回想か?出る準備をしてくれ、帰るぞ。といっても…これと言ってないか。仕事の連絡が入った。急いで帰る。聞いてくれ、いい話だ。来年放送予定のドラマの打診が来てる。本は出来てるそうだ。見て貰って話がしたいって言って来てる。気に入ってくれたら直ぐにでも撮り始めたいって言ってるらしい」

「ああ、解った」

「どうする?やるか?」

「どうするって?やるんだろ?」

「向こうは是非、真にって事で、最初から真を当てて話を書いたみたいなんだ。相手役も他の出演者も希望があるらしい。いい話なんだけど…、どうやら中々のラブストーリーらしいぞ?いいのか?」

「あ゙…ラブストーリーか…」

「ああ、年相応の、大人のな。だから俳優に拘ってるらしい。単発じゃない、ワンクールのドラマの仕事だ。評判が良ければスペシャルも頭にあるらしい。やるやらないは帰ってからだ。取り敢えず帰るぞ?」

「ん…ああ、解ってる」

「本は読んでみないと解らないが、真にって事は、惚れ込んで書いてくれてるって事だろ?他の役者ではこの話は無しって事だ。断ればこのドラマは作られない可能性大だ…」

「解ってるよ…」

避けてないで、そろそろラブストーリーもやれって事だろ?

「…しーちゃん、感じの良さそうな人だったな。予想通りか?もう心奪われたって感じだな、…しーちゃんに」

長いつき合いだ、真の様子を見れば聞かなくても解った。これはドラマにもいい影響になりそうだ。芽生え始めた恋心、実にいいタイミングだ。

「あ?…ああ。はぁ…何だか…すっと自然に入って来たよ。一目惚れだ…ザワつく感じ。こういうもんだったって、…久々だな。……参った…」

「良かったな」

と一先ず言っておく。顔も好みだったって事だ。ふぅ…これからが大変だ。
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