不審メールが繋げた想い

しーちゃんの事を詩織と呼び捨てに出来る事が嬉しくて堪らなかった。詩織と呼んで、恥ずかしそうに、真さん、と呼んでくれる。…それも嬉しかった。
本当に好きだから婚約指輪だって本気の気持ちからだった。指に嵌める瞬間、どさくさを装ったが内心ドキドキしていた。
ホテルで詩織さんの左手に触れた時、細い指だと思った。指輪のサイズが合ったのは全くの偶然だった。目で見た指の記憶とお店の人が言う標準的なサイズ…。サイズを計るリングも見せて貰った。標準より小さくする事にした。嵌まらなければ直しはできる。思いを込めてMtoSを彫って貰う事にした。
詩織さんが家に来て泊まった。母親とも何だか直ぐに打ち解けて馴染んだ。詩織さんに変な壁のようなモノが無いからかな。年齢的になのかもしれないが、よくできた人だ。母さんももっと話がしたそうだった。詩織さんで良かったと本当に喜んでくれた。会って貰って良かったと思った。
隣の部屋に詩織さんが寝ているのだと思ったら堪らなくなった。いつまで経っても眠れなかった。もう若くはない、おじさんだ…フ、俺は…男だったんだと思った。遅くベッドに入ったが、結局朝まで寝られなかった。寝返りばかり打っていた。ゆっくり起きるつもりだったが眠れなかったから下に下りた。結果としてそれが良かった。母さんが少し調子が悪いと言う事に気がつけたからだ。朝ご飯の支度はもうしてあった。病院に連絡してみた。担当医が居る日だった。診てみましょうという事だったから支度をして病院に行った。詩織さんは疲れているだろうからそのまま寝かせておいた。
母さんは大丈夫だった。というより、もう、これからは弱っていく一方になる…。心配するなと言ったところで詩織さんは心配する。ただ大丈夫だからと連絡した。

俺のスケジュール、クリスマスイブの日は早い時間から撮影の打ち上げがある事になっていた。早々に切り上げて詩織さんのところに行くつもりだった。それまでも思うように連絡していなかったから。特にクリスマスにこだわったつもりは無かった。どんな日だって会えるなら会いたかった。
大人のラブストーリーのドラマは、詩織さんを好きになった俺にとって今まで以上に苦しいモノになった。したくはない。本音はそうだ。葛藤しか無かった。詩織さんと心を通い合わせ、抱き合った事も無いのに、俺はそんな風に見える事を何度も何度も、したくない相手とする事を要求された。…今更だ。プライベートの自分の気持ちなんて関係ない。ラブストーリーだろうとなんだろうと演じることが仕事だ。今までだって頭では解っていた。…だから篭った。中途半端にはできない。役に気を入れなければ受けた意味が無い。詩織さんが以前から観たいと言ってくれた大人のラブストーリーだから。余計、中途半端にはできなかった。俺なりに最善の努力をして…、いい物を観て貰いたかった。撮影の間は相手の女優さんの事だけを考え、好きになろうと思った…。そうする事で下手な演技を補おうと思った。…結局だ。俺は相手の女優さんが詩織だったらと…そう思い、思いを重ねた。
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