甘い天秤
one
冬の寒さが顔を出し始めた今日、久しぶりに実家の門のまえに立っていた。

自分もここで育ったはずなのに、家の前の長谷川と書かれた威圧的な大きな門を前に二の足を踏む。


突然、大事な話とはなんだろうと思いながら、意を決して足を前に進めた。


門をくぐり、玄関への道を歩いていると、私がたどり着くより先に扉が開き、母、長谷川 蘭の明るい声が聞こえてきた。


「凛ー‼待ってたわよ。久しぶりね。なかなか顔だしてくれないから…会えて嬉しいわ。ますます綺麗になって」

「なかなか来れなくて、ごめんね」

「いいのよ。お仕事忙しいんでしょう?あっ!お父様も首を長くしてお待ちよ。さぁ、入って。」


久しぶりの母のテンションに、気後れしていた私の気分も上がった気がする。

部屋に入ると私の父、長谷川 茂が笑顔で待っていた。


「凛、久しぶりだね。元気にしてたかい?仕事の方は順調かな?」

「うん。元気に毎日忙しくしてるわ。」

「そうか。それはよかった。」

父に促され向かいのソファーに座る。少しそわそわしながら次の言葉を待った。

「それで、今日呼んだのは、今度行われる、創立記念のパーティーに凛にも出席してもらおうと思ってね。凛も27だし、そろそろいい頃だろ?」

「えっ?なぜ突然……私も…?」

「突然ではないよ。私たちは前々から思っていた。私はあんな事がなかったら、娘であるという事を隠さずにいたのに…。」


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