甘い天秤
そわそわと待っていると、携帯が着信を知らせた。
確認すると、思っていた人だった。小さく息を吐き、着信を受ける。


「もしもし。おはようございます」

「おはよう。凛さん。着いたよ」

「あっ、はい。今、出ますね」

短い会話で電話をきり、玄関へ向かった。


エレベーターの中で私の胸の高鳴りは最高潮に達する。
逸る心を落ち着かせるために、ひとつ深呼吸をする。


地上に到着し、マンションのエントランスを歩いて行くと、コンシェルジュの滝さんの声が聞こえてきた。


「おはようございます。凛様。行ってらっしゃいませ」

このマンションは父の個人的な持ち物で、ここで働く滝さんは私が幼い頃からの顔見知りだ。


「おはよう。滝さん。行ってきます」

私は笑顔で挨拶をし、マンションを出る。外に出ると黒い大きなSUVの車の側に立つ笹川さんが目に飛び込んできた。


スーツ姿も目を惹くけど、私服も格好いい。色の薄いジーンズに黒のVネックのTシャツ、濃いベージュのダウンを着ていて……とても、格好いい。


今日一日、こんな笹川さんと一緒かと思うと、自分の格好が大丈夫か気になってきた。


デコルテがあいた、身体にフィットする少し短めの紺のワンピにロングブーツを合わせ、白いコートを着ている。


そんな事を考えながら、笹川さんの側に立ちもう一度挨拶をする。
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