甘い天秤
six
車から降りると、少しひんやりとした潮風が頬を撫でた。


「寒くない?」

「はい!大丈夫。むしろ、気持ちいい!」


あまりの開放感に思わず手を上げ深呼吸した。すると伊織さんはクスッと笑って言った。


「そんなに喜んでもらえたなら、連れてきたかいがあったな。敬語もなくなってきたし」

「あっ!すみませんっ!」

「いや、気にしないで。俺もその方が距離が近くなって嬉しいし」


こんな会話をしながら、自然と手をとられた。


驚いて伊織さんの方を見る。


「嫌なら振りほどいて。嫌じゃないなら、このまま歩こう」


そんな事言われても、振りほどけるわけがない。私の胸はこれでもかと高鳴り、それを心地いいと感じている。


私が振りほどかないのを確認すると、静かに歩きだした。


しばらくお互い何も言わずに歩いていると、砂を捉えながら伊織さんは、私の歩幅に合わせて歩いてくれているのがわかる。


そんなさりげない伊織さんの行動にも胸がときめく。

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