甘い天秤
seven
翌日、会社に出勤すると私を待ち構えていたように、秀人くんが近づいてきた。


「おはようございます。凛さん。メール確認終わってからでいいので、時間もらえますか?」


秀人くんは何か切羽詰まっているように見え、私は急いでメールの処理をした。

人目も気になり、後から業務に必要な書類も探したいからと、普段はあまり行かない資料室にきていた。

私は、いつもと違う少し切羽詰まった表情の秀人くんと、誰もいない資料室で二人きりの状況に胸が高鳴る。

その高鳴りに気付かれないように、先輩としての声を出す。


「秀人くん。どうかした?」

「……どうかした、じゃないですよ…」


やっぱりいつもの秀人くんではない……私は戸惑って「えっ?」と聞き返すことしかできない。


「昨日、兄貴と一緒だったんですよね?」

「え?……どうして?」

「兄貴から聞きました。……好きだと伝えたと……」


驚きすぎて何も言えずにいると、


「こんな感じで伝えるのは俺の意に反するけど、ゆっくり構えてもいられなくなったので……」


そういって素早く私の手を握り、引っ張られた。


私はその力に抗えず、そのまま広く逞しい秀人くんの胸に、ぶつかるように頬を寄せた。
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