甘い天秤
何が起きているのか、理解する前に秀人くんの声が耳もとで聞こえた。


「もう、遠慮はしません。指をくわえて他の男にさらわれるのを見てられない……ずっとこうしたかった。好きです……凛さん」


私の頭の中はパニックだ。そのあと、どうやって自席に戻ったか覚えていない。


気づけばいつものように仕事をしていた。今はお昼休みのようだ。綾からメールがきていた。


今日は綾に相談する日だから、残業しないようにお昼はデスクで摂るとのことだった。



ちょうどよかった。伊織さんと秀人くんのことで頭がいっぱいで食欲なかったから。でも、午後も業務があるから、甘いものでも飲もうと自販機に向かう。


温かいミルクティーを買い、自販機の前に設置された椅子に座り一口飲む。

強張った身体から力が抜けていく。


朝から緊張していたのが分かり、思わずフッと笑ってしまった。


「一人で楽しそうだね」


その人は、壁にもたれて私を優しい笑顔で見ていた。


「伊織さん……」


「もしかして、秀人に何か言われた?……俺が凛を好きな事言ったしね」

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