甘い天秤
今後の事をあれこれ考えながら、会社のエントランスを通り抜けると、耳に心地いい低い声で呼び止められ少しドキッとした。


「長谷川さん!」


誰だろう?と振り向くと営業の笹川課長だった。


「はい?」


あまり面識がないのに、なぜ呼び止められたかわからず、首をかしげながら返事をすると、


「おっと!ごめん。思わず…。」


どうかしたのかそのまま、?が頭にあるなか、つづきを待つ。


「その袋、ここの近くのパン屋のだよね?」

「え?あ~、そうです…。」


それがどうしたのか、またつづきを待つ。


「クッキーまだ残ってた?」


あそこのクッキーは数量限定ですぐなくなってしまうので、今日の私はラッキーだったのだ。


「私が先ほど行った時はありましたけど、あと二つぐらいだったので、今残っているかどうか…。」


さっきの様子を思い出しながら返事をした。


「そっかー…。残念。今日こそはと思ってたんだけど…。」


本当に残念そうにがっくり項垂れている。その姿は少し幼く見え、可愛くてクスッと笑ってしまった。
< 8 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop