空に散った君の瞳
「太陽にもさ……」


不意に君が言った。


「えっ、なに?」


またぼーっとしていた僕を見て、君はクスッと笑った。


「太陽にも、寿命があるって知ってた?」


冷たい風が、草をさわさわとたなびかせる。


遠くに見える、点のような家の電気が一つ消えた。


「……知ってるけど、それは何千年とか何億年先の話でしょ」


「そう、うーんと先の話」


僕は君の方を振り返った。


依然として、君の瞳の中には、冷たく輝く大きな満月が揺れていた。


その満月が一瞬消えて、再び現れた。


「さっき観た映画に『俺の命で世界を救えるなら喜んで差し出そう』って台詞あったじゃん」


「あー、あったね、そんな台詞」


うそつき、と君が笑った。


バレたか、と僕も笑った。


あの日、僕は連日の残業が祟って、つい映画館で寝てしまっていたのだ。


満月がまた消えた。


「もし自分の命を差し出して世界が救われたとしても、結局は世界も壊れちゃうんだよね」


「人類の歴史が幕を閉じるって訳だね」


おっ、カッコつけたな、と君が笑った。


ボキャブラリーの豊富さは、辞書並みだから、とおどけて僕も笑った。


また一つ、遠くの明かりが消えた。


「だからさ、もし誰かが命を差し出して世界を救ったとしても、意味あるのかなって思って」


うーん、と僕は唸った。


「それをなんかの筆記試験に出されたら解ける気がしないな」


そう言って笑うと、君も笑った。

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