ハッピーエンドじゃ終われない
修学旅行から2週間ほど経ったあとのことだった。
私は弥生の様子が少しおかしいことに気づいた。

『…でさ、昨日のテレビが面白くてね!』

昼休み。
教室で二人でお弁当を食べながら談笑をしていて、ふいに彼女の表情を見ると、どうやら上の空で下を向いたまま箸も止まっていた。

『弥生…?』

私は彼女に呼びかけた。
しかし反応はない。

『やーよーい!』

2回目は大きな声で呼びかけると、現実に引き戻されたようで、すぐに彼女は顔をあげた。

『…えっ!?なに?』

彼女は驚いたような表情をしていた。

『なんかぼーっとしてたから。寝不足?』

そう言って私はお弁当の卵焼きを頬張る。

『え…まあ、そんな感じかな…』

『また遅くまで小説読んでたの?好きだね』

彼女は恋愛小説を読むのが好きで、睡眠を削り遅くまで小説を読みふけることがよくあるらしい。
いつも頻繁に授業中にあくびをしては眠い目をこすって、目薬をさしていた。

『ははは…』

私はふとグラウンドのほうを見ると、サッカーをしている男子のグループが目に止まった。

『あ、サッカーゴールの前にいるのって井上くんじゃない?』

私は彼の姿を見つけ、弥生にわかるように指をさした。

『そうだね…』

彼女は窓の外をちらっと見ただけで、すぐに目をそらした。
いつもの彼女なら目を輝かせて、窓にはりついて見つめるのに。
今日の弥生、なんか変だな。

気にかかってはいたものの、明日にはもとに戻るだろうと軽く考え、その日はそれ以上なにも言わなかった。
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