拝啓、花の小瓶へ。
Chapter_1 ナズナとアムネジア
「ゆう、ゆう!」
「なんだよ。」
「おおきくなったら、ゆうのおよめさんにしてよ!」
「はあ?ガキくせー!」
「これ、**がつくったの!おそろいだからね、ゆびわのかわりだから!」
「いらねーよそんなの!かえれよ!」
「う…ゆうのバカ!」
五月。
いつの間にか手に持っていた小瓶を見て、溜息を零す。
名前も思い出せない彼女が置いていった小さなこれは、この季節になると必ず大きすぎる存在感を放つ。
貰った時は小さいナズナ…ペンペン草の花が入っていたんだっけ。
確かあの子はずっと前に引っ越した、俺にずっとひっついていた子。
「悠!…悠!!学校!」
「か、和馬!?今行くから!」
きっとこれの贈り主は前も俺を困らせていたんだろう。小瓶のせいで、なんて思っていても鞄に入れてしまう。
「ごめん和馬!許して!」
「しょうがねぇなー!許してやる、早く行こうぜ!」
高校に入って二年目。
入学してから何回も聞いた冗談を受け流して、花や草の香りがするようになった道を並んで歩く。
「でも、まだ時間大丈夫でしょ?」
「ちーがーう。会いたい奴がいんの」
最近和馬は学校に行くのが早い。
お目当ては春川さんだと思うけど、何でだろう?
「ね、春川さんってそんなに可愛い?」
「…転校生ってとこがイイ。って、ちげーから!」
「いや言ったじゃん!でも和馬面食いでしょ?何で?」
「違うっつーの!違う!」
春川さんは、ついこの間転校してきたばかりだった。
前髪は決して短くないし、ずっとマスクしてて顔が見えない地味な見た目の子。
転校生ってこともあったのか知らないけど、クラスの皆はよく話しかけたりしている。
でも、和馬がそこに加わる人だとは思えないんだよなぁ…
休み時間だってずっと俺といるし、朝くらいしか話しかけない。
「和馬、本当何で?」
「違う!そういうのマジでないからな!」
「……」