拝啓、花の小瓶へ。

「ブランコ位しかない公園も夕暮れだとなんかいいよなー」

それはお前の心がぐちゃぐちゃだから、静かな場所がいいだけじゃないの。

言いたくなる気持ちを堪えてうん、と呟いた。俺もいいなって思ってたから。


「ブランコ乗ろうぜ。壊れそうだけど」

「じゃあ俺乗らない。責任持ちたくない」

「ちぇ…お、ぺんぺん草だ。こんなに生えるもんなのか」

「食べる?」

「食えねーだろ」

無知だねと笑って言ってやったあと、俺はすごく小さい頃これを食べたことがある気がしていた。

母さんはそういうのやらないし、俺にそんな入れ知恵したのは誰だったかなと考えてああ、あの子かと思い出す。

まだ小さかったから、すっごく不味く感じた。いや、今食べてもきっと美味しくはない。

だけど久々にじっと見たこの花が何だか愛おしくて、小瓶を取り出す。

少しだけとって中に入れると、和馬は女々しいと笑った。




翌朝、取っておいたナズナは萎れてしまった。

「まあそうだよね…」

「悠!おい悠!」

「今日も?懲りないなぁ…」

今日は小瓶は持っていかなくていいや。

小瓶の中に少し水を入れてしまった俺は期待しているんだろう、絶対無理だ。

「まだ春川さんと話したいの?」

「当たり前じゃん。そんなに諦めて欲しいのか?」

「違うよ。すごいなってだけ」

「馬鹿にしてたりする?」

「まさか。」

「…春川もう来てるかも!俺は急ぐ!」

すごいと思ってるのは本当だ。俺ならそんなことしない。

向こうだって安心するだろう。

「本当いい子ちゃんだね、和馬」

「…やっぱ馬鹿にしてるだろ?」

「ほらほらもうすぐ校門だよ急いで急いで。」

「ちっ…」


和馬に遅れて校内に入ったけど、誰もいなかった。

「春川さんいないね。」

「お前が遅いから…」

「俺のせいじゃないでしょ…」

溜息をついて下駄箱を開ける。


そこには、紙と花を入れた小瓶が遠慮がちに置かれていた。
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