月と太陽 ―Moon is beautiful―
月と太陽 ―Moon is beautiful―
・
***
「はい、お疲れ様です!」
8月某日、下旬頃。
カンカン照りのアスファルトに恵みの雨が降る時。大気が不安定だと、天気予報は言っていたっけ。
「お疲れ様でした!有難う御座いました。」
大体いつも俊が〆る、某雑誌の撮影はとんとん拍子で終了した。
スタッフさんの拍手が流れ、もう一回、深く礼をすれば、すぐさま楽屋。
映画の撮影中である俺は、暇さえあれば台本だ。
それぞれ忙しい俺らは、目まぐるしい毎日をただ淡々と送っていた。
でも、そんな毎日は悪くない。
寧ろ、心地がいい。この忙しさが。
「そう言えば、もうすぐ悠人の誕生日じゃん!」
思い出したように楽屋へ戻る廊下の途中で大声で言ったリーダー。相変わらずの大声です。
「うるせーな。もうちょっと音量を考えなさいよ。」
で、その声に突っ込むのはマツ、こと松田慧。変わらない突っ込み担当は、もちろん、こうしたオフでも健在。
「そっかぁ…、悠人。もうすぐ誕生日かぁ。
どこか、飲みに行きてぇな。」
ふわふわした、この人はいつも眠たげ、大地。
この人が飲みに行きたいなんて、珍しい。
・
「じゃあ、家に飲みに来る?」
きっちりスケジュールをこなす、STARRTSのしっかりもの。
新婚ホヤホヤの俊が背伸びをしながら、言った。
俊は、確か、一般人の人とおめでたく。ジューンブラインド。
迷信を信じた俊は、式を6月に挙げた。
デビューの地、ハワイで静かに式を挙げたみたいだけど。
親族だけで行ったようで、俺たちはいけなかった。
・
「マジで!?行きたい!俊ちゃんの奥さん、見たいし!」
「こら、バカ。
美人だからと言って、狙ったらあんた、正真正銘のバカだからな。」
“バカ、バカ、うるさいなぁ。不謹慎だぞ!”
無機質な廊下で、ぎゃいぎゃいマツに文句を言うリーダー。
「ふふ、自慢の妻ですよ。
すごい表情豊かで、でもどこか物静かな人だよ。
きっと、喜ぶと思う。悠人の誕生日会も兼て30日、飲もうよ。」
…俊が選ぶくらいだから、きっといい女なんだろうな。
そんな感じで和気あいあいとした会話の中で。
俺の誕生日会が開かれることになった。
・
でも、この日が運命変えてしまうことなど。
俺は全然わからなかった。
「そういえば、誕生日会はいいけど。
悠人、次のスケジュールは映画撮影でしょ?」
しまった、早くいかなければならなかった。
俺は急いで楽屋に戻って荷物をまとめる。
そんな毎日が、愛しいくせに。
俺は、この自身の手で壊していく。
そんな事、今の自分には想像できなかった。
・
それから、目まぐるしい、日々はすぐに過ぎ去り。
映画の撮影は順調に進む中、すぐに誕生日会は来る。
映画の撮影で遅れた俺は後参加。
来た時には、凄いマツがぎゃはぎゃは、酔ったのか笑っていた。
マツが酔うなんて、新鮮すぎて逆に怖かった。
「お邪魔します…。」
「おぉー…、悠人!はっぴーばーすでぃっ!」
賑やかな広々としたリビングのテーブルには、沢山の美味しそうな料理が並んでいた。
最近、料理に興味を持ってるから、ぜひとも教えてほしい、なんて思っていた。
そのローテーブルにはみ出すように寝ているのは大地とリーダー。
所構わず、寝るこの人たちのリラックスぶりは驚き。
「誕生日、おめでとう。悠人。」
「あぁ、ありがと。俊。」
笑みを浮かべた俊は、ある包みを渡した。
「何これ?」
「開けてから、ですよ。」
そっと、包み紙を外して中から出てきた木箱を開けたら。
そこには気になってたすごい高い、メガネ。
「うわ!これ、入手困難だったのに。
すげぇ。」
「ははは、喜んでいただけたならば有り難き幸せ。」
早速かけよう…――――。
その時、俺はある人に目を奪われた。
知らない、綺麗な澄んだ白い肌の。
まるで月のような女性が、美味しそうな料理を両手にこちらに向かって来た。
どくっ、と突然高鳴った胸。
「あぁ、“皐月”。ありがと。」
“皐月”…。
皐月さん、って言うんだ。
サラサラの黒髪が揺れた。
「俊さん、大丈夫ですよ。」
声も綺麗。
思わず、その皐月さんに見とれていたら。
俊が俺に紹介した。
“俺の妻、皐月。
悠人と同い年だから話も合うと思う。”
・
いけない。
なに、帰る場所のある人に目を奪われていたのだろう。
初めての感覚に戸惑いながらも、冷静を装って、“内田悠人です。”と紹介した。
「知ってますよ、映画、いま撮影中と俊さんに聞いていて。
大変ですよね、体調崩さないようにしてくださいね。」
さりげない優しい声は、疲れ切った俺の心まで染み渡って。
その凛とした、構えが素敵だった。
「これ、トマトを冷やしたものです。
知ってました?トマトは夏野菜なので体を冷やしてくれるんです。
熱のこもった夏の体に持って来いの食材ですよね。」
“ついでに言うと、疲労回復効果もあるんですよ。”
気を遣ったメニューにもまた、胸を打たれている自分がいた。
***
「はい、お疲れ様です!」
8月某日、下旬頃。
カンカン照りのアスファルトに恵みの雨が降る時。大気が不安定だと、天気予報は言っていたっけ。
「お疲れ様でした!有難う御座いました。」
大体いつも俊が〆る、某雑誌の撮影はとんとん拍子で終了した。
スタッフさんの拍手が流れ、もう一回、深く礼をすれば、すぐさま楽屋。
映画の撮影中である俺は、暇さえあれば台本だ。
それぞれ忙しい俺らは、目まぐるしい毎日をただ淡々と送っていた。
でも、そんな毎日は悪くない。
寧ろ、心地がいい。この忙しさが。
「そう言えば、もうすぐ悠人の誕生日じゃん!」
思い出したように楽屋へ戻る廊下の途中で大声で言ったリーダー。相変わらずの大声です。
「うるせーな。もうちょっと音量を考えなさいよ。」
で、その声に突っ込むのはマツ、こと松田慧。変わらない突っ込み担当は、もちろん、こうしたオフでも健在。
「そっかぁ…、悠人。もうすぐ誕生日かぁ。
どこか、飲みに行きてぇな。」
ふわふわした、この人はいつも眠たげ、大地。
この人が飲みに行きたいなんて、珍しい。
・
「じゃあ、家に飲みに来る?」
きっちりスケジュールをこなす、STARRTSのしっかりもの。
新婚ホヤホヤの俊が背伸びをしながら、言った。
俊は、確か、一般人の人とおめでたく。ジューンブラインド。
迷信を信じた俊は、式を6月に挙げた。
デビューの地、ハワイで静かに式を挙げたみたいだけど。
親族だけで行ったようで、俺たちはいけなかった。
・
「マジで!?行きたい!俊ちゃんの奥さん、見たいし!」
「こら、バカ。
美人だからと言って、狙ったらあんた、正真正銘のバカだからな。」
“バカ、バカ、うるさいなぁ。不謹慎だぞ!”
無機質な廊下で、ぎゃいぎゃいマツに文句を言うリーダー。
「ふふ、自慢の妻ですよ。
すごい表情豊かで、でもどこか物静かな人だよ。
きっと、喜ぶと思う。悠人の誕生日会も兼て30日、飲もうよ。」
…俊が選ぶくらいだから、きっといい女なんだろうな。
そんな感じで和気あいあいとした会話の中で。
俺の誕生日会が開かれることになった。
・
でも、この日が運命変えてしまうことなど。
俺は全然わからなかった。
「そういえば、誕生日会はいいけど。
悠人、次のスケジュールは映画撮影でしょ?」
しまった、早くいかなければならなかった。
俺は急いで楽屋に戻って荷物をまとめる。
そんな毎日が、愛しいくせに。
俺は、この自身の手で壊していく。
そんな事、今の自分には想像できなかった。
・
それから、目まぐるしい、日々はすぐに過ぎ去り。
映画の撮影は順調に進む中、すぐに誕生日会は来る。
映画の撮影で遅れた俺は後参加。
来た時には、凄いマツがぎゃはぎゃは、酔ったのか笑っていた。
マツが酔うなんて、新鮮すぎて逆に怖かった。
「お邪魔します…。」
「おぉー…、悠人!はっぴーばーすでぃっ!」
賑やかな広々としたリビングのテーブルには、沢山の美味しそうな料理が並んでいた。
最近、料理に興味を持ってるから、ぜひとも教えてほしい、なんて思っていた。
そのローテーブルにはみ出すように寝ているのは大地とリーダー。
所構わず、寝るこの人たちのリラックスぶりは驚き。
「誕生日、おめでとう。悠人。」
「あぁ、ありがと。俊。」
笑みを浮かべた俊は、ある包みを渡した。
「何これ?」
「開けてから、ですよ。」
そっと、包み紙を外して中から出てきた木箱を開けたら。
そこには気になってたすごい高い、メガネ。
「うわ!これ、入手困難だったのに。
すげぇ。」
「ははは、喜んでいただけたならば有り難き幸せ。」
早速かけよう…――――。
その時、俺はある人に目を奪われた。
知らない、綺麗な澄んだ白い肌の。
まるで月のような女性が、美味しそうな料理を両手にこちらに向かって来た。
どくっ、と突然高鳴った胸。
「あぁ、“皐月”。ありがと。」
“皐月”…。
皐月さん、って言うんだ。
サラサラの黒髪が揺れた。
「俊さん、大丈夫ですよ。」
声も綺麗。
思わず、その皐月さんに見とれていたら。
俊が俺に紹介した。
“俺の妻、皐月。
悠人と同い年だから話も合うと思う。”
・
いけない。
なに、帰る場所のある人に目を奪われていたのだろう。
初めての感覚に戸惑いながらも、冷静を装って、“内田悠人です。”と紹介した。
「知ってますよ、映画、いま撮影中と俊さんに聞いていて。
大変ですよね、体調崩さないようにしてくださいね。」
さりげない優しい声は、疲れ切った俺の心まで染み渡って。
その凛とした、構えが素敵だった。
「これ、トマトを冷やしたものです。
知ってました?トマトは夏野菜なので体を冷やしてくれるんです。
熱のこもった夏の体に持って来いの食材ですよね。」
“ついでに言うと、疲労回復効果もあるんですよ。”
気を遣ったメニューにもまた、胸を打たれている自分がいた。