月と太陽 ―Moon is beautiful―




朝食を運んで、メンバーと一緒に初めてではないいただきますをして。
朝の弱いぼけっとしてるリーダーが忽ち、明るい顔になった。


「うんま!何これ!皐月ちゃん、美味しいよ!」

出来上がったエッグベネディクトを、寝癖立つボロボロメンバーは頬張った。
すっかり、皐月さんと仲良くなったリーダーはすっかり“ちゃん”付け。
その姿に羨ましい、なんて思ってしまった。



「ふふ、お口に合えば幸いです。」

「コラ、馬鹿。何馴れ馴れしくちゃん付けてんだよ。
うちの俊さん、嫉妬しますよ?」

“あははは!そんな嫉妬深くねぇし!”とハの字に笑った俊は幸せそうだった。
それはそうだ、毎日あの微笑む彼女の、飯、食えるんだから。



「そう言えば、これ、冠番組の特集で。
大地のエッグベネディクトをマツがひっくり返して、台無しになってたよね。」



「あれ、そうでしたっけ?
ねぇ、湯川さん、俺、やらかしましたっけ?」


ナイフで一口大に切ってまた頬張った。
黒胡椒のアクセントが効いていて、美味しい。
今度家で作ろう。




「…大地寝てるし。笑」

「何時間寝れば、この人寝ないわけ?」


「うまあああい。」
他愛ない会話で、俊とマツが盛り上がっていた。
食いながらうとうとする、大地をマツは体当たりしながら起こしていた。
だけど、びくともしない。



「あら、この人意外とどっしり構えてる。」
「はっはっはっは!!」

俺は、その様子を片目に、朝食も少ししか食べずに、キッチンの方へ持って行った。
その様子を見て皐月さんが、目を丸くした。




「あれ、残り食べないんですか?」
「あぁ、映画の撮影があって。」

“じゃあ、タッパ―に保存した方がいいですね。”
と言った彼女は残飯をタッパ―に詰めてくれたから、助かった。

本当に気が利く人。
俊がこんな人を好きになった理由がわかる気がする。
俊、あまり空気の読めない人とか、好きじゃなさそうだし。

俺がそうだし。



「悠人さん、映画撮影上手くいくといいですね。」
タッパ―の入った赤い紙袋を手渡され、俺はそれを受け取る。


「返す時には、俊に渡す。」



その俺のセリフに、んー、と複雑な表情を浮かべた皐月さん。






「ん?なんか問題でもある?」


「いや、またお料理一緒にできたらと思って。
こんな私でよければ連絡先、交換しませんか?」


彼女からそのセリフが出るとは思わなかった。
俺は、ポケットからスマホを取り出した。




最近の連絡交換といえば、大体LINEになるだろう。
俺も最近はメンバーと連絡を取るのも、マネージャーと連絡を取るのも、専らLINE。

皐月さんから教えてもらったIDを検索して、追加した。
その追加に応えた皐月さんは、その数秒後、承認した。



「有り難う御座います、落ち着いた時くらいに、連絡しますね。」
彼女の黒髪から香った匂いは、凄く甘くて。
その髪に触れたい…なんて、どこかで俺はそう考えていた。

だが、そんな欲求は理性によってかき消された。


「ん、じゃまた。」
軽く凜さんに会釈すれば、あの笑顔が来て。
誤魔化すように腕時計を見た。



「やべ、もうこんな時間。」
LINEでマネージャーに俊のタワマンまで迎えに来てほしい、と伝えると、すぐにマネージャーからの返事が来た。


≪りょ。≫
りょ、って何だよ。
…、そうちょうど4月で入れ替えだったマネージャー。
だけど、今度のマネージャーは、今度は何かすげぇ、関西弁で、今の若者語と言われる言葉を連発するし。
この人とは、解りあってはいけなさそう、正直。





その5分後くらいに、マネージャーはマンション前についた、と連絡してきたから、まだ少し騒がしいリビングにいるメンバーに軽く、声をかけて、移動車に向かった。




「おはようさん。」
もう4か月くらい経つけど、こんなにため口使う人は初めてだ。
この人の起用理由を知りたい。



「あぁ、おはよ。」

「昨日誕生日やったんてね?おめでとさん。」

マネージャー、そこちゃんと把握してたんだ。
少し、しみじみ。



「ありがとう。」

いーえいえ、と言ったマネージャーは車を走らせた。



「今日は福島県の方が撮影場所なんで、寝ても構へんよー。」


「寝たら、俺、態度悪くなるよ。」

“そうなん?なんか悠人っちの取扱説明書が欲しいわぁー。”
寝起きは弱いからいつも不機嫌になってしまう。、マネージャーにそう説明したら。
あぁ、そうか、俺と同じやん、って言った。



「そう言えば、もう今日で夏、という夏が終わりそうやなー。」
開いた車の窓の隙間から、風が吹いて俺の汗ばんだ肌を撫でた。



「そういえば、今日で最後か。」
しゅわしゅわしゅわ、と泣くセミ。
その鳴く声を遠くに、聞いた俺は、目を閉じた。結局、寝るんか。と笑ったマネージャー。







夏が…。







終わる…――――――――。








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