月と太陽 ―Moon is beautiful―
・
それから、他愛ない会話で盛り上がった俺と皐月さんは。
フランス料理に舌鼓を打った。
他愛ない会話の中で、少し、貴方の事を知れた。
本当はもっと管理栄養士の資格を生かしたいと思っていることや、
最近、食通になりたいと思い始めていること。
利き手は左手、という事。
左手には眩しくて痛い位、輝いてるダイヤの婚約指輪がこんなに笑顔にさせるという事。
俊、相当悩んでた、よな。
なんて、指輪を見つめながら、そう思っていた。
・
だからこそ、友情を壊してしまいたくない、と思った俺は。
この気持ちに終止符を打とう、そうしようとすると。
「あ、そう言えば。お誕生日からだいぶ遅れてしまいましたが。
これ、プレゼントです。受け取ってください。」
彼女は、こうして、逃がさない。
「時計…?アルマーニだ…」
デザイン性の高いアルマーニ。
「お気に…召しませんでしたか?」
「いや…、凄く嬉しい…。」
弁解するように、自分の付けていた時計を外して、彼女がくれた時計を目の前で付けた。
「良かったです。」
安心しきった、その笑みは、俺をもっとこの気持ちから抜け出せなくする。
・
***
最後に出たコーヒーで一息ついて、皐月さんを送るために出たお店。
値段に貴方は驚いた。“私が払います。”
そう言ったけど、無視して俺は払ったっけ。
お店を出た瞬間。
貴方は深々と頭を下げた。
「ご馳走様でした。美味しかったです!」
その姿に、もっと胸が高鳴った。
しつこく“私が払ったのに…”と言われるよりも、
気持ちよく“ご馳走様”と言われた方が、奢り甲斐がある。
「家、送るよ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
にこっ、と笑った彼女は三歩後ろを歩いた。
大和撫子、って感じの皐月さん。
だけど、何故か皐月さんは足を止めた。
「あれ…、俊さん…?」
“俊さん”と呼んだ声。
綺麗な瞳が送る視線の先では、変装した俊が知らない女の腰を引き寄せていた。
親し気なその姿は、彼女の足を止めるほど。
その悲し気な瞳が耐えられなくて。
彼女の細い手首を握って、駐車場に止めた車へ急いで向かうと。
貴方の大きな目から涙が落ちた。
「…何かすいません。
あれ…、何だったでしょうかね。」
肩は、今にも泣きそうなほど、揺れていた。
そんな俺は、衝動的に皐月さんを胸に寄せていた。
・
凜
「は、悠人さん…!?」
抱き締めたら、こんな浮遊感がするなんて、思っていなかった。
俊の香りがして、少し腹立たしくなる中。
彼女の黒い髪の頭に頬を寄せた。
「皐月さんが泣く姿なんて見たくないんです。」
少し、体を強張らせて、拒否している皐月さん。
…そりゃあ、無理はない。
俊が好きだっていうのに、違う男に抱きしめられてるんだから。
「ちょ、っと、離してください…。」
ぐっ、と押されて離れた細い体。
左薬指が、痛い位に気持ちを締め付ける。
鋭く、初めて睨まれた。
その瞳には涙が溜まっていて。
今にも、溢れて、しまいそう。
「最低。」
涙を座席のシートに落とした皐月さんはシートベルトを外して、忙しく外へ出た。
白い、ヒールの靴の音を鳴らしながら、走り去る皐月さん。
涙を拭いながら走る、その姿。
黒い髪が揺れて、綺麗なんだけれども。
あまりにも拒否されたショックで、何も考えられなかった。
――――――、悪いことをしてしまった。
その罪悪感に押しつぶれそうな俺は、ハンドルの上で突っ伏した。
「はぁっ…。」
どうして、抱き締めてしまったのだろう。
でも、抱き締めてしまって、触れてしまって。
この気持ちがもう完全に確証された。
そうだ、これは恋だ。
許されない、禁断という名の恋をしてしまったんだ。
黒髪や、あの優しい言葉だけで、浮ついていたキモチ。
そうか、これが恋か。
でも気づいてしまったから、もっと胸が痛くなった。
もっと触れたい、もっと近づきたい。
そんな事、思ってはいけないのに。
人間って『見てはいけない』『してはいけない』って言われるほど。
見たくなったり、してみたくなったりするってのと同じで。
もっと、もっと、この気持ちにゾクリ、としてる俺がいた。
・
手探りで、挿した鍵を廻してエンジンを掛ける。
ふわっ、と空調が動き出して、熱を帯びた体をそっと、冷やしてくれる。
アクセルを踏んだ。
車は当たり前のように動き出して、自宅へ向かう。
その向かう途中の交差点。
青なのに信号機で止まっている人。
手を目に当てて、涙を落としていた。
その人が皐月さんだって事、その時は知らなくて。
そのまま、無視して通り過ぎた…――――――。
それから、他愛ない会話で盛り上がった俺と皐月さんは。
フランス料理に舌鼓を打った。
他愛ない会話の中で、少し、貴方の事を知れた。
本当はもっと管理栄養士の資格を生かしたいと思っていることや、
最近、食通になりたいと思い始めていること。
利き手は左手、という事。
左手には眩しくて痛い位、輝いてるダイヤの婚約指輪がこんなに笑顔にさせるという事。
俊、相当悩んでた、よな。
なんて、指輪を見つめながら、そう思っていた。
・
だからこそ、友情を壊してしまいたくない、と思った俺は。
この気持ちに終止符を打とう、そうしようとすると。
「あ、そう言えば。お誕生日からだいぶ遅れてしまいましたが。
これ、プレゼントです。受け取ってください。」
彼女は、こうして、逃がさない。
「時計…?アルマーニだ…」
デザイン性の高いアルマーニ。
「お気に…召しませんでしたか?」
「いや…、凄く嬉しい…。」
弁解するように、自分の付けていた時計を外して、彼女がくれた時計を目の前で付けた。
「良かったです。」
安心しきった、その笑みは、俺をもっとこの気持ちから抜け出せなくする。
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***
最後に出たコーヒーで一息ついて、皐月さんを送るために出たお店。
値段に貴方は驚いた。“私が払います。”
そう言ったけど、無視して俺は払ったっけ。
お店を出た瞬間。
貴方は深々と頭を下げた。
「ご馳走様でした。美味しかったです!」
その姿に、もっと胸が高鳴った。
しつこく“私が払ったのに…”と言われるよりも、
気持ちよく“ご馳走様”と言われた方が、奢り甲斐がある。
「家、送るよ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
にこっ、と笑った彼女は三歩後ろを歩いた。
大和撫子、って感じの皐月さん。
だけど、何故か皐月さんは足を止めた。
「あれ…、俊さん…?」
“俊さん”と呼んだ声。
綺麗な瞳が送る視線の先では、変装した俊が知らない女の腰を引き寄せていた。
親し気なその姿は、彼女の足を止めるほど。
その悲し気な瞳が耐えられなくて。
彼女の細い手首を握って、駐車場に止めた車へ急いで向かうと。
貴方の大きな目から涙が落ちた。
「…何かすいません。
あれ…、何だったでしょうかね。」
肩は、今にも泣きそうなほど、揺れていた。
そんな俺は、衝動的に皐月さんを胸に寄せていた。
・
凜
「は、悠人さん…!?」
抱き締めたら、こんな浮遊感がするなんて、思っていなかった。
俊の香りがして、少し腹立たしくなる中。
彼女の黒い髪の頭に頬を寄せた。
「皐月さんが泣く姿なんて見たくないんです。」
少し、体を強張らせて、拒否している皐月さん。
…そりゃあ、無理はない。
俊が好きだっていうのに、違う男に抱きしめられてるんだから。
「ちょ、っと、離してください…。」
ぐっ、と押されて離れた細い体。
左薬指が、痛い位に気持ちを締め付ける。
鋭く、初めて睨まれた。
その瞳には涙が溜まっていて。
今にも、溢れて、しまいそう。
「最低。」
涙を座席のシートに落とした皐月さんはシートベルトを外して、忙しく外へ出た。
白い、ヒールの靴の音を鳴らしながら、走り去る皐月さん。
涙を拭いながら走る、その姿。
黒い髪が揺れて、綺麗なんだけれども。
あまりにも拒否されたショックで、何も考えられなかった。
――――――、悪いことをしてしまった。
その罪悪感に押しつぶれそうな俺は、ハンドルの上で突っ伏した。
「はぁっ…。」
どうして、抱き締めてしまったのだろう。
でも、抱き締めてしまって、触れてしまって。
この気持ちがもう完全に確証された。
そうだ、これは恋だ。
許されない、禁断という名の恋をしてしまったんだ。
黒髪や、あの優しい言葉だけで、浮ついていたキモチ。
そうか、これが恋か。
でも気づいてしまったから、もっと胸が痛くなった。
もっと触れたい、もっと近づきたい。
そんな事、思ってはいけないのに。
人間って『見てはいけない』『してはいけない』って言われるほど。
見たくなったり、してみたくなったりするってのと同じで。
もっと、もっと、この気持ちにゾクリ、としてる俺がいた。
・
手探りで、挿した鍵を廻してエンジンを掛ける。
ふわっ、と空調が動き出して、熱を帯びた体をそっと、冷やしてくれる。
アクセルを踏んだ。
車は当たり前のように動き出して、自宅へ向かう。
その向かう途中の交差点。
青なのに信号機で止まっている人。
手を目に当てて、涙を落としていた。
その人が皐月さんだって事、その時は知らなくて。
そのまま、無視して通り過ぎた…――――――。